訪問看護における意思決定に役立つ「臨床倫理の4分割法」

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医療介護分野の進歩は日進月歩です。最新の治療法や知見がたくさん研究され、個人が取れるケアにおける選択肢はどんどん増えて続けています。選択肢を選ぶ際には必ず意思決定しなければなりませんが、訪問看護だけではなく、医療介護の現場においては、職員も様々な場面で意思決定をすることが求められます。

重度の認知症や何らかの病気によって意思疎通が困難になった利用者様に、希望や意思に沿った治療を実施する場合は、事前の本人の意思確認や代理決定者としての家族様の存在が重要になってきます。

このような状況で、訪問看護においてどのようなプロセスで意思決定を進めたらよいのでしょうか。

  • 利用者の意思を本当に尊重できているのか?
  • 利用者様、家族様にとって最善の決定がなされているのか?

といった倫理的な葛藤を抱えることがあります。そこで、医療介護の現場の意思決定に役立つ概念「臨床倫理の4分割法」について解説します。

医療介護の倫理的な課題とは

訪問業務の中で、「治療やケアの選択に悩む本人、家族をどのように支え、援助すればよいのか」という倫理的課題に直面することがたくさんあります。

しかし、そもそも医療介護分野における「倫理」とは一体なんなのでしょうか。 

倫理とは?

広辞苑によると、倫理とは「人として守るべき道、道徳」という説明がされています。 英語の代表的な辞書では「science of conduct(=行動の科学)」という表現もされます。
つまり、私たちが社会の中で何らかの行為をするときに「これは道徳的に善いことか、正しいことか」と判断する際の根拠を「倫理」と言います。

特殊な環境にある医療介護の現場

しかし、医療介護の現場では、一般的な倫理的な決まりごとでは決められないことがあります。
例えば、家族以外の者には自分の病状を伝えないでほしいと予め表明している患者がいるとします。
ところが、患者とはほとんど会ったことがない親戚が病院を訪ねてきて、患者の病状を詳しく尋ねたとします。

このような場合、多くの医療従事者は「真実を伝える」ことの正しさよりも、「患者の意思を尊重する」ことの正しさを優先するかもしれません。
つまり医療介護の現場においては、道徳的な行為は必ずしも常に正しいとは言えないのです。
よって、真摯に職務に取り組む現場の職員は悩んでしまうことになります。

臨床倫理の4原則

そこで参考になるのが、「臨床倫理の4原則」です。

4原則とは、

  1. 「自律性の尊重」
  2. 「無危害」
  3. 「善行」
  4. 「公正」

のことです。
自律性尊重の原則とは「患者(利用者)の自律的意思決定の尊重」、無危害の原則とは「患者に危害を及ぼさないこと」、善行の原則とは「患者に利益をもたらすこと」、公正の原則とは「医療資源の公平な配分」を指します。

この4つの項目を満たしているときに倫理的に正しいと判断しても良いとされています。ただ、どれも抽象的な概念であり、個人や背景、環境によって常に「善」は異なりますし、独善的に決定せず、周りと協調しながら意思決定を進めていくことが大切です。

この原則を頭に入れ、以下に述べる「臨床倫理の4分割法」でより実践的な意思決定を行っていきます。

臨床倫理の4分割法とは

カンファレンスなどの話し合いの場において、臨床倫理の4分割法は円滑に治療方針を決定するための実践的な方法であり、倫理原則に準ずる考え方であるため用いやすいといえます。

臨床倫理の4つの視点

臨床倫理の4分割法では、4つの視点に区分し、それぞれについて利用者に対する情報を紙やパソコンに書き出して整理します。
4つの視点とは、以下の通りです。

  1. 医学的適応(診断、予後や治療法など)
  2. 利用者の意向・動向
  3. QOL(幸福追求)
  4. 周囲の状況

この4つの視点から利用者の情報を出し合い、最終的にチームで最善策を意思決定していきます。

それぞれの最善策の選択肢がもたらす

  • 結末
  • 益と害(メリット・デメリット)
  • 利点・問題点

を列挙し、比較考慮していきます。そしてなぜその選択肢がよいのかを話し合い、例外がないかを考えます。

関係職種や家族様などの多くの人との対話と協議を通し、考え方の偏りを防ぎ、バランスを取るように努め、より妥当な判断を目指します。個人で考えた最善策は必ず考え方が偏っているものです(バイアス)大切なことは、自分の判断に過度な自信を持たないこと、自分の道徳は常に不完全ではないかという疑問を持ちながら独断(独善)に陥らないように注意することです。

道徳や善・悪といった概念は環境や文化や個人によって大きく左右されます。自分が良いと思っても相手が良いと思わないこともたくさんあります。必ず他者と協議し、妥当性を検討する姿勢が必要です。

臨床倫理の4分割法でありがちな失敗

私たちは誰でも「自分が信じたい」と思っている情報だけを収集する傾向が強くあります。二次情報は過剰に信用せず、自分の耳と足を使って、できる範囲で実際に当事者に会って話を聴くこと(1次情報を集めること)が大切です。

事実と個人的な意見を区別しない

事実とは異なる「自身の思い込み」を事実としてカンファレンスの場で発言しないように注意しなければ、当然、臨床4分割法を使っても適切な意思決定はできません。もし、自分の思いを伝えたい場合は、「これは私の主観ですが」「私の感想ですが」など前置きをしてから他者に話すようにしましょう。

4分割表(情報収集のリスト)に頼りすぎる

逆説的ですが、リストにはない、本当に必要な情報があるかもしれない(構造化された情報収集の弱点)ことを念頭においておくことも大切です。臨床の4分割法はあくまで考えやすくするためのフレームワークで、最低限の情報を整理するためのものです。答えがフレームから外れていたとしても、みんなが患者様や家族様に適したものであると思えるのなら、それが答えになります。

まとめ

倫理とは私たちが社会の中で何らかの行為をするときに、「これは善いことか、正しいことか」判断する際の根拠となるものです。誰しも人生の重大な場面では、意思決定することが強く求められることがあります。医療や介護の現場では、病気や手術などの人生の重大な意思決定場面に遭遇している方のケアを行うことが多いため、医療介護従事者は意思決定の基本を学んでおく必要があります。

そんなときに、臨床倫理の4分割法は実践的なアプローチであり、意思決定を行いやすくなります。しかし、それだけに頼りすぎず、「一人で決めない、一度で決めない」ということが最も大切なことです。

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