今後、介護される高齢者が増える一方、介護する側である介護職の相対数が足りず、家族が介護するケースが増えてくることが予想されています。
また、国は在宅医療を推進する方向性を打ち出しており、地域包括ケアシステム構築に向けて動いています。
これらのことを踏まえると、「在宅で家族が介護を行う」ことが一般化してくる可能性があります。
それまでに介護職の持つ専門知識を、ご家族やご利用者だけでなく、広く皆が持つ知識として一般化していくことが社会的にも重要なことだと考えられます。そこで今回は、介護をする上で基本的な概念になる「ADL」と「IADL」についてご紹介いたします。
「ADL」とは?
ADLとは(Activities of Daily Living)の略で、日本語では「日常生活動作」といわれます。これは介護をする上で知っておかなくてはならない大切な概念です。
社会生活を送る上で人間が行う活動はある程度共通しています。
一度、ご自身の一日を振り返ってみて下さい。
成人の場合、
- 朝布団から起き、顔を洗い、食事をする。
- トイレに行き、服を着替え、玄関に行き、外に出て歩く。
- 家に帰ってから食事、お風呂に入り、布団で寝る。
という日常的な活動が共通しています。
その中でも、
- 食事
- 更衣(着替え)
- 排泄
- 整容
- 移動
- 入浴
は社会的に健康な生活を送る上で欠かせない個人の活動です。これらをADLと呼びます。
各項目ごとに更に細分化することもできます。
「IADL」とは?
細分化したADLをIADL(Instrumental Activities of Daily Living)といいます。IADLとは、手段的日常生活動作といわれ、以下の項目が代表的です。
- 電話
- 買い物
- 家事
- 外出
- 服薬の管理
- 金銭の管理
です。
上述のADLを以下のように細分化していくと、その中にIADLも含まれてくることがお分かり頂けるかと思います。
食事
- 食材を用意する(買ってくる)
- 調理する
- 配膳する
- 食べる
更衣
- 適切な服を選ぶ
- 上着と下着の脱ぎ着
- ボタンを留める/チャックを閉める
排泄
- トイレまで移動する
- トイレで用を足す
- 陰部を拭く
整容
- 顔を洗う
- 髭を剃る
- 化粧をする
- 髪を櫛でとかす
- 爪を切る
移動
- 歩いて移動
- 歩行補助具を使って移動
- 介助で移動
入浴
- 浴室内で体を洗う
- 浴槽に浸かる
これらの動作の中で自分で行えない動作があると、その部分をお手伝いするために介護が必要になります。
具体的な介護の例
例えば、歩くと膝が痛く、近所のスーパーまで買い物に行けない方の場合、食事の項目の「食材を用意する」ことが行えなくなります。
そんな時は介護保険を活用し、訪問ヘルパーに代わりに買い物に行ってもらうことで、自宅で食事ができるようになります。
脳卒中片麻痺の後遺症がある方の場合、「更衣ができない」ということもよくあります。指が動かしにくいため、ボタンを留める動作ができなかったり、腕を通すことが難しかったりします。その場合は、ボタンが付いていない着衣を利用したりします。
また、同じく爪が切れない場合、自助具といって、片手で爪が切れる道具を使ったり、デイサービスに行った時に切ってもらったり、ご家族に切ってもらったりします。
ADLとIADLの概念を知っておくことは重要ですが、「その人らしい生活」を中心に考えることが何よりも重要です。
介護の目的は”自立支援”
人は、多少労力や時間が掛かっても、自分でできることがあるからこそ、自己効力感や自尊心が育まれ、生活に適度な緊張感と張りが生まれます。
「できないと本人が言っているから…」と何でもお手伝いするのではなく、ADLを考慮した上で、その人の心身の状態を正しく認識し、必要な介護のみを最小限に行い、介護される方の”自立する気持ち”を奪ってしまわないように関わることが重要です。
ADLでできないことがあると、活動や社会参加が制限され、さらに心身機能が低下し、ADLが低下する・・・という悪循環に陥ってしまいます。
悪循環を断ち切るために介護を行うことで効果的に自立を支援することができます。