介護をする目的を考えると、極論では、全ての介護は「被介護者の生活の質を向上させること」を目標としているはずです。
では、「生活の質」とは一体何を指すのでしょうか?
「生活の質」のことを「QOL」と言います。今回はこの「QOL」についてご紹介します。
QOLとは?
Quality Of Life(クオリティ オブ ライフ)の略で、日本語では「生活の質」や「生命の質」と略されます。1946年にWHOが「健康とは、身体的、心理的、社会的に良好で安定した状態であり、単に病気がなかったり病弱でなかったりすることではない」と提唱したことに端を発し、生活の質を求めることは、社会的な人間として健康的な生活を送る上で欠かせないもの、とされています。
生活の質を考慮するとき、様々な側面から多角的に人間の生活を捉える必要があります。
具体的には、
- 身体的に満足な活動が行えているか?
- 経済的にはどうか?
- 日常的に行う作業に精神的満足感があるか?
- 周囲の人間関係は良好か?
- 適度に新しい環境に身を置いているか?
- 精神的な安らぎや充実感があるか?
- 他者に貢献する活動や気持ちを持っているか?
などです。
しかし、これはあくまで主観的なものであり、他者がこれらの度合いを推測することは簡単ではありません。
”質”とは何か?
QOLを他者が客観的に考慮するときに”質”という曖昧なものをしっかりと定義することが重要になります。
おおむね、社会生活を送る人間の生活の質が高い状態は似通っています。
しかし、詳細の部分になると「何を”幸せ”とするか」は個人によって違うため、細かなケアを考えるときには考慮する必要があります。
例えば、精神的に落ち込んだとき、他者に寄り添い励ましてほしい人もいれば、声を掛けず、そっとしておいてほしい人もいます。
最終的に精神的に落ち込んだ状態を早く回復させ、前向きに生活したいという気持ちは同じでも、その人によって取るべき方法は全く正反対のアプローチが必要になる場合もあります。
自分が思う方法だけに囚われるのではなく、相手のことを考慮し、柔軟なアプローチを検討する必要があります。
QOLとADL
ADL(Activity of Daily Life)とは、日常生活を送るために必要な基本的な動作である、食事、更衣、排泄、入浴、整容(容姿を整えること)、移動などを指します。
1980年以前の医療や介護、リハビリテーションの目的はADLの自立でしたが、1980年以降はQOLを求める方向へ変わってきています。
ADLを機械的に充足させるだけではなく、QOLも充足する関わりが期待されています。
例えば、仮にADLが充足されていても、被介護者がしたいことができていない状態であれば、QOLは低い状態です。しかし、ADLが低い状態でも、本人が満足のいく生活ができている場合、QOLが高い場合もありえます。
例えば、外出する際に歩くことが困難な方が、電動車椅子を使用して外出することができれば、QOLは向上します。
ADLとQOLは別であり、ある程度は比例しますが、一緒に考えないようにしておく必要があります。
ADLを考慮した上で、余暇活動や社会活動なども考慮することが重要です。
QOLを上げるには?
社会生活を送る上でQOLのベースとなっているものは、人と人との「コミュニケーション」です。コミュニケーションと一言でいっても、言語的なものだけでなく、非言語的なものも含まれます。
社会から孤立し、人間関係が希薄になり十分なコミュニケーションが取れないとき、人のQOLは低下してしまいます。
特に高齢者は、定年や健康状態の悪化による外出機会の減少、核家族化などの影響もあり、社会との関係が希薄になりやすい傾向があります。
地域の催しやデイサービスへ出かけること、または自宅に介護士(ヘルパー)に来てもらうだけでも、社会との接点を増やすことができます。
できるだけ多く、社会と再び繋がる接点を持つことがQOL向上に大きく寄与する場合もあります。そういった視点を持ちつつ介護を行うことで、ADLだけではなく、QOLを考慮した関わりができるのではないでしょうか。