あなたは”ロコモティブシンドローム(ロコモ)”をご存じですか?
ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは運動器症候群のことです。
超高齢者社会が訪れる日本の将来を見据えた日本整形外科学会が2007年に提唱した概念で、骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で「立つ」「歩く」といった移動機能が低下している状態のことをいいます。
日本整形外科学会では、ロコモティブシンドロームを予防することで「健康寿命を延ばそう」ひいては「病気になるとかかる社会保障費の削減に一致団結して取り組もう」という趣旨を述べています。
これは厚生労働省が推奨する「健康日本21」の取り組みの1つでもあります。
健康日本21は、新世紀の道標となる健康施策、すなわち、21世紀において日本に住む一人ひとりの健康を実現するための、新しい考え方による国民健康づくり運動です。 これは、自らの健康観に基づく一人ひとりの取り組みを社会の様々な健康関連グループが支援し、健康を実現することを理念としています。
身体活動にかかわる骨・筋肉・関節・神経の総称であり、筋肉、腱、靭帯、骨、関節、神経(運動・感覚)、脈管などの身体運動にかかわる様々な組織・器官によって構成される機能的連合のことです。
筋・骨格・神経系の組織・器官にはそれぞれに独自な作用・機能がありますが、それらが密接に連動・連携して運動器としての役割を発揮しています。
ロコモーターとパッセンジャー
ロコモティブシンドロームの重要な概念として、"ロコモーター"と"パッセンジャー"という考え方があります。
- ロコモーター・・・骨盤より下の部位のことをいいます。
- パッセンジャー・・・上半身や体幹部分のことをいいます。
ロコモーターには「運動器」「運ぶもの」という意味があり、パッセンジャーには「乗客」「運ばれるもの」という意味があります。
本来の運動学の考え方では"ロコモーター"と"パッセンジャー"は互いに影響し合い、どちらか一方を鍛えるだけでは効率的に運動できないとされています。
これらの関係性は、「地震が起きたときのビルの揺れ」を想像すると理解しやすいかと思います。
ビルを構造物として人体に例えると、
ビルの下の階がロコモーター、
上の階がパッセンジャーになります。
地震が起きてビル全体が揺れたとき、下の階から揺れはじめます。
しかし上の階の耐震性が低いと、上の階(パッセンジャーの部分)もグラグラ揺れ始め、それにつられて下の階(ロコモーターの部分)の揺れも増幅されます。
耐震強度の強い構造物は、必ずこの原理に沿って下の階よりも上の階により強靭な耐震措置が施されています。
つまり、基礎の部分(ロコモーター)と同じように上の階(パッセンジャー)も強くしておかなければ耐震構造の意味をなさないのです。
また、ロコモーターとパッセンジャーの関係性は、スポーツの世界でも重要視されています。
優秀な陸上選手は高いパフォーマンスを発揮するために、両足はもちろんのこと、骨盤よりも上の体幹のトレーニングを意識しています。
陸上競技の場合、0.01秒単位の世界で戦っています。
そんなは中でいくら足が速く動かせるように鍛えても、そのスピードのせいで上体がぶれてしまうと安定して走ることができません。ですから、競技の世界では足とセットで体幹もしっかりと鍛えるのが常識です。
それでは、シビアな世界で戦っている陸上選手ではなく、私たちが普段行っている日常生活レベルの運動(散歩、ウォーキングなど)の場合はどうでしょうか?
ロコモーター(下肢)を鍛えるだけで充分なのでしょうか?
動作におけるパッセンジャーの影響とは?
ある動作(立ち上がる以上の負荷がかかる動作)が上手くできない時、私たちは足の力や機能ばかり着目してしまいがちです。
しかし、実はパッセンジャー(体幹)に問題があることが少なくなく、陸上選手でなくともパッセンジャーを鍛えることは重要になってきます。
具体的には、円背(背中が丸くなる)状態だと足を上げることができずにつまずきやすくなります。
また、体幹の筋力低下・異常はバランス能力にも大変大きな影響を及ぼします。
こんなときは両足の筋肉を鍛えるだけでなく、パッセンジャー(体幹)を鍛えることで体を伸ばして歩くことができ、足をきちんと上げて大きく出すことができるようになります。
高齢者で寝たきりになる原因 第3位の「骨折・転倒(全体の12.4%)」を予防するためにも、ロコモーター(下肢)の運動だけでなく、パッセンジャー(体幹)を強化するコア(体幹)トレーニングを併用して行いましょう。
まとめ
運動を行うとき、私たちは足の筋力ばかり意識してしまいがちですが、実は体幹の筋力や姿勢の調整が大切です。
"ロコモーター"と"パッセンジャー"の概念を知っておくことで、運動をより効率的に・実生活に役立つように行うことができます。
ぜひ参考にしてみてください。
※参考 厚生労働省『健康健康寿命の延伸に向けた最近の取組み』