加齢に伴う筋力低下は50歳代~60歳代の間に急速に進み、特に足の筋力低下は普段の活動範囲を狭め、転倒の危険性を高めることになります。
高齢者の身体的特徴
高齢者には
- 生理的老化
- 病的老化
の両面に関わる加齢現象が発生します。
「生理的老化」は内的な環境(精神や意思)を制御する能力の低下であり、
「病的老化」は病気にかかりやすくなる、という意味です。
その中でも、高齢者の身体機能の低下で著明なものとして
1. バランス機能の低下
2. 柔軟性の低下
3. 運動能力の低下
の3つがあります。
加齢により身体能力が低下して運動の範囲が限られてくると、筋肉の繊維は細くなり、やわらかさや緊張(テンション)が失われ、萎縮するという悪循環に陥ってしまいます。
高齢者の筋肉の加齢変化の特徴として下記のようなことが言われています。
1. 動作がしにしくなる・・・動的筋出力低下が静的筋出力低下よりも大きい
2. 足が先に衰える・・・下肢筋力低下が上肢筋力低下よりも著明
3. 素早い動作がしにくくなる・・・収縮速度の速い速筋繊維が選択的に萎縮しやすい
4. 日常生活で使わない筋肉が低下を起こしやすい
また、高齢者は
- 神経~筋肉の反応時間の延長
- 神経伝導速度の遅延
- 固有受容感覚の低下
があるとされています。
つまり、簡単にいうと「動作が鈍く、稚拙になりやすい」ということです。
加齢による運動量低下の悪循環を絶つためには、旧来より言われている『筋力の維持・向上』と共に、神経と筋肉の連携を強化する運動が望ましく、感覚をしっかり使う「感覚運動刺激」を満たすことが妥当です。
高齢者の運動では”積極的に立って動き、全感覚を総動員すること”が重要
高齢者の場合、上述のように全身の筋力が低下していることは一般的に広く知られています。
しかし、筋力低下の原因は老化以外にも感覚機能の低下にも起因してます。
私たちの身の回りの元気な高齢者は、精力的にお友達と毎日お話をしたり、活動的に色々なところに出掛けたりしていますよね。
お友達とお茶をしたり、熱中できる趣味があったり、コンサートに足を運んだり。
そういった方々は実に”「感覚」を使うのが上手い”方が多いです。普段から感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚など)をたくさん使った生活をされているのです。
高齢者で今までの生活が大きく変わってしまう要因のひとつに、「転倒による骨折・入院」があります。
この転倒を防ぐためには筋力トーレニングをするだけでなく
- 転倒しそうになっても立ち直る
- とっさの時に柔軟に反応できる
- 感覚と筋肉の円滑な連携
も重要であることはいうまでもありません。
そのためには、できるだけベッドから離れて、立って歩き、足にしっかりと体重を載せて行う様々な全身運動が重要です。
つまり全身の
- 神経
- 筋肉
- 視覚や聴覚
- 触覚
などの感覚を総動員するような全身運動や活動が大切になります。
まとめ
従来のリハビリや運動では、「筋力の低下」だけが問題になりがちでした。
もちろんそれも大切なことですが、しかし、筋肉などの効果器が有効に働くためには適切な感覚入力が必要であり、筋肉トレーニングと同時に感覚入力を高めることも重要になってきます。
また、感覚を活性化することで日常生活での筋肉が使われる頻度が増え、普段の生活の中でも筋力低下を予防しやすくなります。
音楽を聞きにコンサートに足を運んだり、庭で愛情を込めて植物を育てたりすることも感覚を刺激する素晴らしい活動です。
ぜひ体の特定の部位だけを鍛える運動だけではなく、感覚をたくさん使う全身運動を意識してみてください。