先日、薬剤師の小林 篤史先生に講師を務めていただいたハートケアグループ メディケア・リハビリ研修会(WEB)「より良く暮らすためのお薬との付き合い方」を開催しました。
70名以上の方にご参加いただき、大盛況の内に終えることができました。
小林先生、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
小林先生が勤めておられる「ゆう薬局 住宅支援センター」は、薬局としては珍しい在宅支援を中心とした訪問薬局です。
個人宅や施設へ薬剤師が伺い、小児から終末期の方までの生活を支えておられます。
生活の中に「お薬」がある
お薬を飲むということは、その人がその人らしく暮らしていくための方法のひとつです。
例えば、頭痛に悩んでいるお子さまがいるとします。
このとき、保護者だけではなくお子さま本人にも「こういうときに薬を飲むと頭痛が治るね」と頭痛・薬との付き合い方を教えてあげます。
すると、お子さま本人も「頭痛がしはじめたこのタイミングで薬を飲めば大丈夫!」と理解し、頭痛と上手に付き合えるようになります。
これは頭痛に生活を支配されるのではなく、頭痛も含めてその子らしい生活を送ることができるようになるということです。
在宅医療におけるお薬の問題点
高齢者が多い在宅医療における特性・問題点は下記のようなものがあります。
- 加齢による合併症とそれに伴う多剤併用による相互作用のリスク増大
- 視覚・嚥下機能等、身体機能低下に起因する薬の飲み忘れや飲みにくさ
- 腎・肝機能の低下や個々人の生理機能に応じた処方・調剤・服薬の管理が必要
また、副作用の説明においても、そこを重点的に説明してしまうと副作用を気にしすぎて薬を飲まなくなってしまったり、必要以上に怖がらせてしまったりすることに繋がりかねません。
したがって、もちろん副作用の説明も大事なことではありますが、それだけでなく、
- この薬を何故飲むのか?
- 飲まないとどうなってしまうのか?
ということをきちんと伝えることが、薬剤師の腕の見せ所だと小林先生はおっしゃっています。
薬剤師の役割
ポリファーマシーの改善
ポリファーマシーは意識的に起こるものではありません。
症状の多様性や病気の併発によって、たくさんの病院・クリニックなどを利用することで偶発的に起こるものです。
薬剤師はポリファーマシーを防止したり改善したりするため、処方医に確認と同意(疑義照会)を得て、処方箋に記載された医薬品の数量を減らす役割を担っています。
ポリファーマシーとは?
多くの薬を服用することにより、副作用などの有害事象を引き起こすことをいいます。
ここで重要なのは「有害事象を引き起こす」という部分で、単に服用する薬が多いだけの場合は、ポリファーマシーとはいいません。
お薬の正しい飲み方の指導
お薬は飲みやすいように日々改善されています。
たとえば、嚥下障害がある方にも飲み込みやすいように膜で薬を包むなど工夫されています。
しかし、そのことを知らずに「嚥下障害があるから」と薬を潰してしまうと逆に飲みにくくなってしまうことがあります。
そういったことがないよう、薬剤師が事前に使い方を説明・指導することも大事な役割です。
その人に合ったお薬の大きさ・形を考える
錠剤、液状、粉状など、お薬にも様々な形状や大きさがあります。
特に錠剤は飲みやすいものと飲みにくいものが混在しており、
たとえば7mm~8mmの大きさの錠剤は飲みやすく、9mm以上のものは飲みにくいとのエビデンスもあります。
しかし、小さいからと言って飲みやすいわけではなく、5mm~6mmになると薬を落として見失ってしまったり、入れ歯の間に挟まってしまったりするなど、小さいからこその飲みにくさがあります。
だからこそ、薬剤師は一人ひとりの状況にあった形状の薬を考えながら処方しています。
在宅高齢者の60%が痩せている
訪問看護師などが訪問したとき、ご利用者に定期的な体重測定をお願いしていると思いますが、訪問薬剤師も同じことを行っています。
栄養状態の確認はもちろん、お薬の量や種類も体重によって変わってくるからです。
たとえば、60kg以上は2錠、60kg以下は1錠の薬を服用している方が、それまで61kgあったのに、ある日体重を計ると58kgになっていたとします。この場合、飲むお薬の量をすぐに減らさないと、肝機能に影響が出たり副作用が出たりする可能性があります。
このように、体重測定することでお薬の服薬状態を変更することも薬剤師の役割です。
しかし、はたしてそれだけでいいのでしょうか?
訪問での薬剤師は、「どうして体重が減ったのか?」というところまで考える必要があります。
たとえば、鎮痛剤としてよく処方されるロキソニンは胃が荒れやすく、食欲不振に繋がる場合があります。
もしかしたら、この方はロキソニンの服用が原因で食欲が湧かず、体重が減ってしまったのかもしれません。
そうであれば食欲と服用のバランスを考えたり、食欲を改善するお薬の処方を考えたりする必要があります。
訪問薬剤師と多職種の情報共有
最近、お薬手帳を持っている方が増えています。
お薬手帳には、主に通っている病院のほか、眼科や歯科、整形から出されているお薬の情報も載っています。
「歯医者さんからこのお薬が出ているから、病院から出ている抗生剤と飲み合わせが悪いですね」など、お薬手帳を確認すればポリファーマシーを防ぐことができます。
また、病院からの処方だけでなく、市販薬の服用なども薬剤師が確認し、連携している多職種へ情報共有することも大切です。
そうすることで、下記のようなご利用者の状態を改善することに繋げられるかもしれません。
便秘の原因
在宅でも便秘の改善としてマグネシウム製剤を使用している方が多く、大半は自己調節して服薬されています。そのため、残薬が多い薬でもあります。
訪問看護師はご利用者に摘便と浣腸をすることも多いですが、便秘の原因は生活習慣だけでなく、もしかしたら薬剤性の要因の可能性もあります。
薬剤師と連携し、適切な対応ができるよう情報共有していきましょう。
グレープフルーツジュースと血圧のお薬
グレープフルーツジュースで血圧のお薬を飲むと、薬の効果が必要以上に出てしまう…というのは有名な飲み合わせのお話だと思います。
しかし、実はグレープフルーツジュースと飲み合わせが悪いお薬は、血圧のお薬だけではありません。
- 高脂血症治療薬
- 抗血小板薬
- 睡眠薬・抗不安薬
などのお薬もグレープフルーツジュースで飲むのは避けた方がよいお薬です。
また、グレープフルーツジュースだけでなく、きんかんやはっさく、ぶんたんなどの柑橘系のジュースもなるべく避けた方がよいでしょう。
もし、あなたのご利用者さんでこのようなお薬の飲み方をしている方がいたら、ぜひ教えてあげてください。もちろん、かかりつけの薬剤師にご相談いただいても結構です。
薬剤師だけでなく、多職種がご利用者の変化に気づくことで様々な生活の問題を解決できることがあります。
ご利用者が大事にしているものに気づき、その人に合った介護・医療を提供することでよりよい暮らしに繋げていきましょう!