西山耳鼻咽喉科医院 院長 西山耕一郎先生に講義いただきました。
さまざまな症例を交えて
- 飲み込むこと
- 息をすること
- 話すこと
誤嚥は誰にでも起こりうることです。だからこそ多職種で見て、考えて、関わっていかなければないと改めて感じました。
誤嚥性肺炎とは
だ液や食べ物が食道ではなく、気道に入ってしまうことを「誤嚥」と言います。だ液や食べ物が気道から肺に入ると炎症が起こり、肺炎になります。
これが「誤嚥性肺炎」です。
誤嚥性肺炎の原因
過去、誤嚥性肺炎の原因はだ液のみとされ、食べ物で肺炎は起こらないとされていました。理由としては、だ液に含まれる口腔内細菌が発症の原因であり、食べ物は無菌だから大丈夫というものでした。
しかし、食べ物は本当に無菌なのでしょうか?
そして、原因は本当に口腔内細菌なのでしょうか?
こんなケースがあります。
経鼻胃管栄養でチューブを誤って肺に挿入し、重篤な肺炎を発症したというケースです。
経鼻胃管栄養ですから、口腔内細菌は関係ありません。そして、経鼻胃管栄養と言っても、チューブから挿入しているものは食べ物です。
よって、
- 食べ物で肺炎を発症する
- 口腔内細菌の関与はほぼない
- 食べ物は無菌ではない
誤嚥したら必ず肺炎になってしまうのか
食べ物を誤嚥したからといって、必ず肺炎になるわけではありません。多くの場合が、まず気管支炎を発症します。この気管支炎が悪化することで肺炎になります。
まずは気管支炎を悪化させない・改善するために噎せに対応することが必要です。
噎せたときの対応
噎せたとき、多くの人は早く噎せを抑えようと水を飲みます。しかし、実は水というのはとても噎せやすい飲み物です。
つまり、噎せているときに水を飲むのは良くありません。
では、どう対応すればいいのでしょうか?
- 体勢を前かがみにする
- 気道を地面と水平にし、咳をする
在宅の高齢者(75歳以上)の約30%が誤嚥をしている
誤嚥の原因は加齢を含めて様々で、口やのどだけが原因ではありません。- 加齢
- 神経筋疾患
- 脳梗塞
- 廃用性症候群
嚥下障害を治療するときに大切なこと
上述したように、誤嚥の原因は嚥下(口・のど)だけではありません。治療の前にまず、嚥下機能を低下させている原因がなんであるかを全身的に、そして医学的に診断することが大切です。
- 漸減型(加齢・老衰・廃用・神経筋疾患など)…嚥下機能がすこしずつ低下し、肺炎や窒息、経口摂取困難などになる可能性が高い。
- 急墜型(脳血管障害・頭部外傷後・大手術後の体力低下など)…嚥下機能が急激に低下し、その後少しずつ回復したり悪化したりする。
- 摂食障害型(拒食症・心因性・重度認知症など)…嚥下機能は正常だが、食べ物を食べたくない
誤嚥を防ぐ方法
▼1.正しく食べる
1.息を吸ってから口に入れる2.飲み込むタイミングで「さあ、飲み込むぞ!」と意識し、軽く頷くように頭を前に倒してしっかりとゴックンする
3.完全に飲み込んだら、1度息を吐く
[ポイント]1口の量を少なめにして意識してゴックンする。「ながら食べ」はしない。
▼2.飲み物はお辞儀をするように飲む
顔を上に向けて飲み物を飲み込むと、思いがけないタイミングで気管に入ることがあります。飲み物を飲むときはコップなどから口に含み、少しうつむいて飲み込むようにしましょう。
食事はよく噛めば噎せないというのは本当?
「食事を30回噛めば噎せにくい」という話を聞いたことはありませんか?しかし、食べ物を単によく噛むだけでは咀嚼によって嚥下反射を誘発し、逆に噎せが出たり誤嚥したりしまうこともあります。
とはいえ、食事は噛まないと美味しくありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
単によく噛むのではなく、咀嚼しても嚥下しやすい食形態を提案することが大切です。
よく噛んでも飲み込みやすい、その人に合った食形態にすることで、美味しく食べながら誤嚥や窒息のリスクを減らすことができます。
誤嚥は誰にでも起こりえる?誤嚥と誤嚥性肺炎の関係
誤嚥自体は誰にでも起こりえることです。子どもでも大人でも高齢者でも、誰でも誤嚥することはあります。しかし、誤嚥したときに「吐き出す力」や「免疫力」、「体力」などが低下していると、誤嚥性肺炎を発症してしまいます。
誤嚥を疑うときの症状
食事中に噎せがあると「誤嚥かな?」と気が付くことができます。しかし、噎せのない誤嚥も多く存在します。
噎せの症状がない時は、下記のことに気を付けてみましょう。
- 食事中に咳ばらいをする
- 食事後に痰が増える
- 食事に関連して発熱がある
- 錠剤がつっかえる
- 食事内容の変化・・・汁物や水分を摂らなくなった(水分を摂ると咳などが出るため、無意識に避けてしまっている場合があります)
- 食事量は変わらないのに体重が減る・・・肺で炎症が起こっており、カロリーを消費しているため
高齢者の肺炎の特徴
- 発熱しない
- 咳をしない
- 自覚症状に乏しい
- 聴診所見が得られにくい
- 白血球が上昇しない
- 胸部レントゲンに映りにくい
上述したように身体症状だけでなく、食事の変化や体重の変化にも気を付けて診ることが大切です。
嚥下障害には自宅でもできる「嚥下おでこ体操」「顎持ち上げ体操」「吹き戻し」が有効
嚥下障害のリハビリといえばアイスマッサージを想像する方も多いのではないでしょうか。しかし、アイスマッサージで効果が表れるのは、「嚥下反射惹起遅延」の場合です。
それよりも
- 嚥下おでこ体操
- 顎持ち上げ体操
- 吹き戻し
特に「嚥下おでこ体操」と「顎持ち上げ体操」は特別な器具を必要としないので、在宅でも継続的な自主訓練が可能です。
毎食事前に5秒間×10回を行いましょう。
「好物なら誤嚥しない」は本当?
蛇足ですが、「好物を食べる時は誤嚥をしない」こんな話を聞いたことはありませんか?これに医学的根拠はありません。しかし、好物は少しずつ味わいながら意識して飲み込むため、誤嚥しにくいという可能性はあります。
ただし、好物なら全く誤嚥しないということではありませんので、やはりその人に合った食形態で楽しみながら食事をすることが大切です。
まとめ
誤嚥は誰にでも起こりえることです。特に高齢者は誤嚥をしたり、肺炎になったりしても症状が表れないことがあります。
噎せや咳、発熱だけでなく、食事内容の変化や体重変化も見ながら全身状態を観察することが大切です。
また、誤嚥しても「吐き出す力」「体力」「免疫力」があれば肺炎になりにくいです。
「嚥下おでこ体操」や「顎持ち上げ体操」などで喉を鍛えて嚥下障害や誤嚥性肺炎を予防しましょう。