前回のブログでメディケア・リハビリ研修会「育ち方の多様性をリスペクトする社会のあり方」をダイジェストでお話しました。今回はその続きです。
研修会では信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授で医師の本田秀夫先生を講師としてお招きし、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの発達と成長、そして彼らを取り巻く環境を中心にお話いただきました。
インクルージョンの促進と合理的配慮
インクルージョンとは
「インクルージョン」とは、多様な人々が互いにの個性を認め合い、一体感をもっている状態のことをいいます。つまり、
- 人はみんな多様なのだから参加の仕方はみんな違ってよい
- すべての人が居心地よく参加できるために、ときにオーダーメイドの支援を行う
繰り返し量をこなせば誰でもできるようになる?発達障害の子どもへの教育現場での理解
どんな人でも多かれ少なかれ「できなかった…」を経験しているはずです。しかし、教育界では何故か、自分が見ている子どもは全員「繰り返し量をこなせば全員必ずできる!」という気持ちを持っている関係者が時折います。
これは発達障害の有無にかかわらず、子どもたち一人ひとりの成長に合わせた合理的配慮に欠ける教育です。
特に学習障害(LD)の子にとって「繰り返し量をこなす」ことは重いストレスとなり、「自分はダメな子なんだ」と不要な挫折を味わうことになってしまったり、精神的に追い詰められて不登校に繋がってしまったりする場合もあります。
合理的配慮とは
例えば、メガネを掛けている子がいるとします。その子に対して「メガネを掛けているなんてずるい!みんな裸眼なんだから、あなたもメガネを外して裸眼でがんばってよ」とは言いませんよね。
また、音が聞き取りにくい人や聞こえない人が手話で会話することを「ずるい!」とは思いませんよね。
しかし、「書くことが苦手」だからとタブレットやスマホで板書を撮影することは、なぜか「ずるい!」と言われることが多いです。
書くことが苦手な子にとって、板書を撮影することはメガネや手話通訳と同様に合理的配慮です。
このような子たちが「ずるい!」と言われることのない社会を目指さなくてはなりません。
発達障害専門の支援者はどのように支援するべきか?
支援者はその子の現在に合わせて「いま獲得できること」と「まだ獲得できないこと」、そして「今後も獲得が難しいこと」を見極め、決断する力が必要です。「いま獲得できること」はできるように支援し、「まだ獲得できないこと」は発達合わせて支援をおこない、「今後も獲得が難しいこと」は、その子が他者からの援助に戸惑わないようにサポートすることが大切です。
現在の「居場所づくり」の問題点と向かうべき方向
子どもの居場所①特別支援学級・通級指導室
現在の教育の場では、発達障害の児童にベストフィットした居場所の確保があまり進んでいません。できる限り通常学級でがんばって、限界がきたら特別支援学級や通級指導室へ行く、という流れになっているのが現状です。
しかし、現在の通級指導室や特別支援学級は、通常学級で上手くできるようになるための「仮の居場所」という色合いが強くあります。
通級指導室で「頑張って通常学級に戻ろうね」などと声掛けをしてしまうと、子どもは「自分はダメな子だからこんな所に来ているだ…」と自信を失くしてしまします。
子どもの居場所②不登校など様々な理由で学校に通うことのできない子どもたちの居場所
不登校など、様々な理由で学校に通うことができない子どもたちの居場所としてフリースクールや適応指導教室があります。ここは学校以外の「学習の場」としてとても大切な場所であるとともに、「避難場所」としての色合いも濃く、メンタルヘルス問題への対応にも比重が置かれています。
もちろん、子どもたちの心のケアはとても大切なことです。
しかし、フリースクールや適応指導教室といった「居場所」は、「不登校」などの症状が表れて初めて提供される場所であるため、子どもたちは本来失わなくて良かった自信を失ったり、負う必要のなかった傷を心に負ったりした状態から「居場所」の獲得を目指さなければなりません。
「居場所」とは、子ども一人ひとりのアイデンティティが保障された場所
「居場所」は本来、子どもたちが自信をつけて楽しく勉強や活動ができる場でなければなりません。一人ひとりの個性とアイデンティティを保証し、安心して過ごせる「居場所」を作ることは、専門支援員が目指すべき方向でもあります。
発達障害があっても積極的に社会参加ができる
発達障害、その中でも自閉スペクトラム症(ASD)の方が自発的に興味を持つものには、下記のようなものがあります。- 鉄道関係
- アニメ・漫画
- コンピュータ
- ゲーム
実際に、鉄道好きのコミュニティでは、自らパワーポイントや動画、写真などを用いて仲間に提案や発表を行い、プレゼン能力がぐんぐん向上しています。
コロナ禍の現在においては、プレゼンだけでなく、オンライン会議ソフトの使用を自発的に発案し、積極的にコミュニケーションの場を広げています。
物怖じしない特長とコンピュータ知識でチーフに昇進した例
20代半ばの自閉スペクトラム症(ASD)のこの方は、高校卒業と同時に電機メーカーに正社員として就職しました。上司に対して臆せず問題の指摘や提言を行う積極性を買われて、入社5年目の同期の中で初のチーフとなりました。チーフになってからも積極性は変わらず、後輩指導のためにコンピュータ端末の操作マニュアルを自ら作成し、好評を博しました。
また、コロナ禍前は自発的に職場での飲み会を企画し、社員たちとの交流を楽しく深めていました。
まとめ
私たちが目指すべきは、発達障害の障害を消すことではなく、社会参加がしやすいような環境や社会を作っていくことです。発達は一人ひとりバラバラで凸凹であるのが当たり前です。子どもの発達は多様で、いろいろな領域が同時に均等に伸びることはありません。
○歳ではこういうことができているはずだから、と発達課題のノルマ化をせず、その子が自信を持って楽しく勉強や活動ができる多様性をリスペクトする社会を目指しましょう!