時岡美穂子先生│研修会まとめ「多職種でつなぐ「食べる」を支えるお手伝い~食形態の大切さ~」

食支援 栄養支援 合意形成とは 多職種連携による食支援 在宅分野での食支援 はみんぐ南河内 ケアステーションからふる 時岡美穂子さんの写真 在宅分野での管理栄養士の役割 メディケアリハビリ研修会

この度、「NPO法人はみんぐ南河内」「認定栄養ケア・ステーションからふる」の管理栄養士 時岡 美穂子 先生を講師としてお招きし、在宅での栄養支援の大切さについてお話いただきました。
食形態を考える時、栄養バランスや食事の安全性だけでなく、食事はその人にとっての人生の一部であり、日常であることを、ご本人、ご家族を含めて関係者全員が認識すべきだと改めて学びました。
今回は、研修会の内容を簡単にですがまとめてみましたので、ぜひご一読ください。

 

栄養とは

栄養とは、ただ単に食べ物を摂取することだけをいうのではありません。
  • 何を食べて栄養素を摂取するのか
  • 取り入れた栄養をどのように使って「生きるのか」
を含めたものを「栄養」といいます。

そして、栄養を摂取して、ご本人が「どのように暮らしたいのか?」を知るためには、
  • ご本人がありたい姿
  • ご本人が思う生活
をしっかりと聞き取り、課題分析をして、その人にあった栄養や食形態を提案していく必要があります。

 

在宅での栄養支援

支援者が考えるべきは「ケ」の食事

「ハレ」と「ケ」の食事と言いますが、支援者が考えるべきは日常の食事、つまり「ケ」の食事です。
食べやすいことはもちろん、調理しやすく毎日きちんと栄養をバランスよく摂取できる食事を提案する必要があります。
つまり極端な話、栄養素をバランスよく摂取できるのであれば、
  • 一汁一菜
  • お惣菜
  • レトルト
を提案することもあります。
最近のレトルトやお惣菜はきちんと栄養を摂れるものが多いです。
手作りで何品もおかずを作る必要はありません。
野菜やお肉をたっぷり入れた具だくさんのお味噌汁とごはんでも栄養が摂れるのであれば問題ありません。
「副菜もたくさん作って、全部手作りじゃないと!」という気持ちは少し横に置いて、とにかく在宅で続けやすいものを提案してみましょう。

 

食事内容例

1食で下記を摂取する必要がある人に提案した食事内容例
  • 250Kcal
  • 糖質35g
  • たんぱく質9g
  • 脂質9g

▼調理できる場合

[例①]
【材料】
  • ごはん 60g
  • 鶏もも肉 25g
  • ニンジン 60g
  • みかん 20g
  • 油 3g
  • ごま 3g
【メニュー】
  • ごはん
  • 鶏もも肉のつくね
  • ニンジンのグラッセ
  • みかん

【例②】
  • ごはん 40g
  • そのまま食べられるソーセージ 30g
  • 野菜ジュース 60g
  • ヨーグルト 70g
  • みかん 20g
【メニュー】
  • 野菜ジュースを用いたトマトソーセージリゾット
  • みかん入りフルーツヨーグルト

▼調理が難しい場合

  • 例②を調理せずに食べる
  • 例②のごはんをお粥に変える

 

食事がテーブルに乗るまでの過程を考える

単に栄養を摂るといっても、その過程は思った以上に長いです。

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「①栄養素」や「⑤消化吸収」「⑥代謝」は、医師や栄養士が課題を分析し、解決のための手段を提示ことができます。
しかし、「②食材の準備」「③調理」「④摂食」における問題は医師や栄養士だけでは解決ができません。
買い物に行くのは本人なのか、家族なのか、ヘルパーなのか…。
はたまた調理はいつ、だれが、どのように行うのか?
配膳は誰がするのか?
そういった点も本人や家族を含めた関係者できちんと決めておかないと、
「料理をしようと思ったけど食材がなかったので、食事はパンで済ませた」
「調理の時間と食事の時間が合わず、毎日冷たいごはんを食べている」
などの問題が出てくる可能性があります。

 

合意形成とは

合意形成とは、関係者(本人・家族・医療職・介護職など)がお互いの意見について、どうしてそのような意見になったのかという理由を共有し、患者にとって最善の方法を見出すプロセスのことを言います。
嚥下状態が悪いからと「じゃあ、あなたは明日からミキサー食になります」と一方的に食形態を押し付けるのではなく、
  • なぜミキサー食にした方がいいのか
  • 患者本人はどのような食形態を望んでいるのか
本人の意思とこれまでのナラティブと併せて関係者ですり合わせていくことが大切です。
また、この合意形成が上手くいっていないと下記のような問題が出てくる可能性があります。

 

家族の不要な責任感

在宅で介護をしているご家族は、本人のために一生懸命であるがゆえに、たとえば誤嚥性肺炎と診断されたとき、
「自分が作った食事が悪かったんだ…」
「自分が食事を作っていたから誤嚥性肺炎になったんだ…」
と責任を感じてしまうことが往々にしてあります。
関係者で事前に誤嚥性肺炎についても話し合っておくことで、家族が不要な責任を感じなくて良い環境を作っておきましょう。

 

本人の望まない「食形態」による弊害

専門職は「安全に食べる」ことを考えます。
もちろんそれは当たり前のことであり、専門職に求められているところでもあります。
しかし、生活において食事に重きを置いている患者さんの場合、本人の望まない食形態での食事提供は、食事そのものの拒否に繋がったり、食における欲求が満たされないため家族など周りの人に辛く当たったり後退反応(幼児的な行動)を起こしたりしてしまう可能性があります。
安全に食事が摂れるからといって、必ずしもその人の人生のためになるとは限らないのです。
そのため、ときには「誤嚥する」ことを前提にし、本人が望む食形態で食事をするために、関係者が連携していくサポートする必要もあります。
もしも誤嚥してしまったとき、家族は、主治医は、ヘルパーは、訪問看護師は、訪問栄養士は、どのように動き、連携していくのかを事前にしっかりと詰めておくことが大切です。

 

まとめ

栄養とは、ただ食べ物を摂取するだけでなく、どのような食事で摂取し、その摂取した栄養素を生活の中で生かしていくのか、ということです。
また、食事は「日常」でなければなりません。
どのような形で食事を摂取していくのかについては、まず毎日続けられる安楽な方法を取ることが大切です。
それがお惣菜やレトルトであっても構いません。
必要な栄養が必要分摂れる方法を関係者で考えていきましょう。
毎日続けることがしんどい方法を取ってしまうと、
「作るのが億劫だから、ここ最近は卵かけご飯だけ食べている」
「3食カップラーメンで済ませている」
など、栄養を十分に取れず、栄養失調や身体機能の低下につながってしまう可能性もあります。

また、食形態は関係者だけで決めず、本人の希望も反映した形で落としどころを探すことが大切です。
本人は「普通食がいい」と希望しているのに、それを無視して勝手に「ペースト食」などにしてしまうと、食事拒否やご家族への暴力・暴言などに繋がりかねません。
時には「誤嚥する」ことを前提に食形態を決定することもあります。
その場合は、「誤嚥した場合」を想定し、本人、家族、支援者がしっかりと合意形成をとり、一致した対応を取れるように体制や環境を整えておきましょう。
 

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