松本健史先生 研修会まとめ│移乗介助の4つのポイント「生活リハビリの達人になろう!日常のなかで見つかる元気のタネ~移乗編~」

松本健史さんの写真 松本健史さんの研修会 生活リハビリ 移乗介助方法 移乗介助のポイント 移乗介助とは 車いすからの移乗方法 ベッドからの移乗方法 介護士向け研修会 ヘルパー向け研修会 デイサービス向け研修会 施設向け研修会 メディケアリハビリ研修会
病院や介護現場、地域分野に携わっている人にとって「移乗」はすでに日常の一部となっているのではないでしょうか。
そんな「移乗」ですが、あなたは「移乗」を1日に何回くらいおこなっていると思いますか?
  • ベッドから車いすに移って1回
  • 食事のときに車いすから椅子に移って1回
  • 食後、椅子から車いすに移って1回
――と、数えていくと、平均して1日に20回以上「移乗」を行っているんだそうです。
1日に20回ということは、20回×30日で1ヶ月約600回。
1年間だと600回×12か月で約7200回も行っていることになります。
1日に20回、1年で7200回もやっていると日常の中に溶け込んでしまい、「なんとなく」移乗している…なんてこともあるかもしれません。

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そこで今回のメディケア・リハビリ研修会では、合同会社松本リハビリ研究所の所長であり、理学療法士でもある松本健史先生をお呼びして、「日常の中の移乗で大切なポイント」を中心にお話いただきました。

 

施設での「移乗」による悪循環

施設では日々の業務に追われ、こんな悪循環に陥っている可能性はありませんか?

①業務に追われて時間がない

②患者さん・利用者さんの動きを待てずに抱えて「移乗」する

③患者さん・利用者さんが力を出さなくなり、体力が落ちる

④体力が落ちるので、もっと力を入れて抱えないといけない

⑤業務がさらにキツくなる

⑥業務がキツくなることで更に時間がなくなる

①に戻る

 

「移乗」では本人の動きを「待つ」ことが大切

確かに、施設ではお風呂やご飯の時間が決まっていて、なかなか本人さんの「動きを待つ」というのは難しいことですよね。
しかし、「②動きを待てずに抱える」と、上記のように本人さんは移乗の際に力を入れることがなくなって次第に体力が落ちていき、結果、移乗の際にスタッフが更に力を使わなければならず、業務的にも体力的にも重労働となって悪循環に陥ってしまう可能性があります。
特に急いでいるときは「せーの!1、2、3!」で移乗したいと思います。
しかし、本人さんが自分の力でお尻を持ち上げ、立位保持できるよう、ちょっと我慢して7秒くらい待ってみませんか?
自分の力を使うことで本人さんは筋力や体力が維持・向上し、スタッフにとっては長期的に移乗業務が安定することに繋がります。

 

最も大切なのは「業務に追われて時間がない」を改善すること

とはいえ、最も改善すべきは「①業務に追われて時間がない」点です。
たとえば、東京都にある施設では業務を見直した結果、「10時に利用者さんみんなで集まってお茶を飲む時間」をなくしました。
なぜなら、このお茶の時間の主旨は「水分補給」であり、みんなが集まる必要性が低かったからです。
ちゃんと水分が摂れるのであれば、「移乗」してわざわざ食堂にみんなが集まる必要はないということですね。
この施設では、この「10時にみんなでお茶を飲む時間」をなくしたことで、個浴の時間が45分/人とれるようになり、更に利用者さんは野球観戦に出掛けたりする余裕が生まれました。
いま一度業務の主旨を確認することで、もしかしたら改善できる点があるかもしれませんね。

 

「移乗」に大切な4つの動作

「移乗」を介助する際は、以下の4つのポイントを大切にしましょう。
①椅子から立ち上がる(立ち上がり動作)
②状態を保つ(立位保持)
③本人の動きに合わせて横にお尻を回す(方向転換)
④「ゆっくり、ゆっくり」と声掛けしながら後ろに座る(着座動作)

 

「立ち上がり動作」の3つの条件

「移乗」の前段階である立ち上がり動作には以下の3つの条件が大切です。
①前かがみ
②足を引く
③適した椅子の高さ

 

立ち上がり動作の条件①「前かがみ」

重心が後ろに行っていると、人は立ち上がることができません。
腰を前方に折り、しっかりと重心を前に持っていく「前かがみ」の姿勢が立ち上がりの初動として大切です。

 

立ち上がり動作の条件②「足を引く」

人は足を前に投げ出した状態では立ち上がれません。
足を膝よりも後ろに引き、立ち上がるための姿勢を整えましょう。

 

立ち上がり動作の条件③「椅子の高さ」

立ち上がり動作に適した椅子の高さは40cmと言われています。
しかし、これはあくまでも教科書的な高さでしかありません。
身長は人によってバラバラです。
したがって、小柄な方には椅子やベッドの高さを低くして足底がきちんと床に着くよう調整します。
長身の方にはクッションなどを敷いて座面を高くし、お尻の位置が膝よりも高く来るよう工夫をすることで立ち上がりがしやすくなります。

 

立ち上がり動作時、介護者が注意すべき点

また、立ち上がりの介助時、介助者が注意しなければならないことがあります。
それは、立ち上がり介助の際、介助者が被介助者の目の前に立ってしまうことです。
介助者が目の前に立ってしまうと、被介助者は十分な前かがみ姿勢を取れなくなります。
特に高齢者が自分の力を使ってお尻を持ち上げる際、思った以上に深く前かがみの姿勢を取る必要があり、前方に広い空間が必要となります。
ですので、介助する際は前から抱えるのではなく、横から介助すると自然な形で立ち上がることができ、スムーズに移乗動作へと移行することができます。

 

「移乗時」の立位保持の大切さ

ベッドや椅子、車いすなどから真っすぐに立ち上がったあと、「早く座らせてあげたい!」という気持ちからすぐにお尻を横に回してしまうかもしれません。
しかし、一呼吸でもいいので立位を保持することで、本人さんはお尻を回すための準備ができますし、筋力の強化にも繋がります。
ぜひ、1、2秒でもいいので立位の姿勢をサポートしてあげてください。

 

移乗介助でフィンガーサポートは厳禁

立ち上がりから立位保持の際、ベルトやベルト通しを指でつまんでサポートする「フィンガーサポート」は厳禁です。
介助される本人さんは「指」での介助に不安定で安心感がなく、また介助する側も指で引き上げるため無駄な力を必要とし、且つ咄嗟の時に対処しにくいからです。

 

移乗介助はパームサポートで

では、どのように移乗介助をするのかというと、手のひらで大転子を支える「パームサポート」で介助します。
大転子を支えることで安定して支えることができるため、本人さんも安心して立ち上がることができます。
また、パームサポートは動き出しが本人さんからできるので、介助者の介護負担を減らすことができるとともに、本人さんも自分の力で立ち上がることができるので体力の低下を防ぎ、立ち上がりに自信を持つことができます。

 

方向転換中は急かずちょっと我慢

ベッドから車いすへ、車いすから椅子へ。
体を方向転換するとき、本人さんを早く安定した場所に座らせてあげたいという気持ちがあると思います。
しかし、本人さんが付いていけない速度で方向転換してしまうと、本人さんがびっくりしてバランスを崩してしまうかもしれません。
気が急いてしまうかもしれませんが、慌てず一呼吸入れ、パームサポートで支えつつ本人さんの速度に合わせて方向転換することが安全に移乗する近道です。

 

着座動作はゆっくりと

着座動作は下肢の筋肉をよく使うため、高齢者にとっては少ししんどい動作です。
そのため、よく「ドン!」と勢いよく着座する方が多いです。
しかし、勢いよく座るとお尻や腰に衝撃が蓄積し、圧迫骨折などに繋がる可能性があります。
介護者は「ゆっくり、ゆっくり」と声掛けしながら、なるべく衝撃なく座れるようサポートしましょう。

 

まとめ

「移乗」を介助する際には大切にすべき4つのポイントがあります。
①椅子から立ち上がる(立ち上がり動作)
②状態を保つ(立位保持)
③本人の動きに合わせて横にお尻を回す(方向転換)
④「ゆっくり、ゆっくり」と声掛けしながら後ろに座る(着座動作)
これらを丁寧に行うことで本人さんの筋力低下を予防し、より安全に移乗することができます。
また、無駄な力を入れる必要がなくなり、安全性が高まるため介助者の負担軽減にも繋がります。
そのほか、松本先生からは施設での経験や実例を交えてより日常生活に寄り添った「移乗」のお話を聞くことができました。
介助者も被介助者も安心安全に、そして楽に「移乗」できるよう、まずは上記のポイントから日常に取り入れてみませんか?

 

次回のメディケア・リハビリ研修会「食支援は究極の多職種連携 ~亡くなるまで食べるためには~」

次回は医師であり、「医療法人ゆうの森」理事長 たんぽぽクリニックの永井康徳先生をお招きして、食支援と在宅医療についてお話しいただきます。
ぜひご参加ください!
・お申込み:https://care-medi220305.peatix.com
・タイトル:「食支援は究極の多職種連携 ~亡くなるまで食べるためには~」
・日時:2022年3月5日(土)14:00~16:00
・講師:永井 康徳先生
    (所属)医療法人ゆうの森 理事長 たんぽぽクリニック
    (資格)医師
・場所:オンライン
・参加費:2500円

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