退院した後、患者様がご自宅に戻る際に行われるのが「家屋調査」です。
今回は家屋調査について理学療法士・作業療法士が患者様の自宅を訪問した際に見ておくべきポイントを場所別に詳しく解説しています。
・玄関
・リビング
・寝室
・トイレ
・洗面所
・風呂場
・階段
・各部屋入口の敷居(段差)
家屋調査とは?
家屋調査とは、患者様が主に回復期病院から自宅へ退院する際、病院で担当していた理学療法士と作業療法士が同伴して、病前と体の変化を踏まえて必要な場所に手すりや踏み台設置等を提案することです。多くの場合、患者様と一緒にご自宅を訪問し、実際に動作を行ってもらって手すりの必要性の有無などを判断します。
退院までにケアマネジャーや福祉用具専門相談員などと連携して、手すりうあ踏み台の設置を完了させておきます。
筆者も以前は回復病院で勤務しており、家屋調査を頻回に行ってきました。
以下、家屋調査で主に療法士が確認する場所ごとに解説していきます。
玄関
玄関では、主に靴の脱ぎ履きがスムーズにできるかをまず確認します。
車椅子移動の方は、車椅子で出入りする際にスロープが置けるかどうか、スロープの長さはどれくらいが適当かを検討します。
多くの場合、高齢の方は立って靴の脱着ができる方は少なく、できたとしても転倒の危険性があるため、玄関に椅子を設置することを提案する場合が多いです。
椅子は折り畳みができて、且つしっかりとしているものであれば、家族さんが玄関を出入りする際にも邪魔にならず便利です。
上がり框(あがりかまち)
最近のおうちはバリアフリーのところも多いですが、多くの家では玄関に段差(上がり框)があります。
上がり框を昇降する際に手すりがあった方がいい場合は、壁に手すりを取り付けることを検討します。
また、古いおうちでは上がり框の段差の高さが40cm以上あるという場合も少なくなく、そういった場合はおおよそ半分程度(20cm程度)の高さの踏み台を設置します。
踏み台はビス止めをすると介護保険の住宅改修として申請することができます。
簡易な踏み台をビス止めせずに置くだけだと保険適用にならないので注意が必要です。
▼上がり框の手すり取り付けについて
手すり取り付けの基本知識として、段差昇降に用いる手すりは「縦」手すり、平地の移動の際に用いる手すりは「横」手すりを取り付けます。よって、上がり框では縦手すりを段差の真横に取り付ける場合が多いです。
脳卒中片麻痺の方であれば、麻痺側の上肢で手すりを把持できないことも多いので、片側の壁に取り付け、後ろ向きで昇降しなければならない場合もあります。できれば両側に取り付けたいところですが、多くの場合、玄関はスペースが限られており、左右の壁に縦手すりを2本取り付けることが困難な場合が多いです。
上がり框に徹手すりを取り付ける場合のポイントは、昇降どちらでも対応できる手すりの取り付け方法を検討することです。
▼手すりの長さの決め方
縦手すりの長さを考える時は、患者に立位で真っ直ぐ前に手を伸ばしてもらった時の床から手のひらの高さを計測しておき、それに上がり框の段差の高さを足した長さにします。立位で腕を伸ばした時に手の高さが地面から90cmだとして、上がり框が30cmであれば[手の高さ90cm+上がり框30cm]で手すりは最低120cmの長さが必要と考えられます。
よって、上がり框に取り付ける縦手すりの位置は段差の真横で、手すりの高さは框を降りた地面の高さから90㎝の所から開始して、120cmの長さの縦手すりを取り付けると良い、ということになります。
横手すりの高さは、その人の腸骨稜(いわゆるコシボネと呼ばれる)の高さになりますが、一般的な高齢者であれば約80cmと覚えておくとまず間違いないです。
リビング
リビングについては、患者様が病前にどれくらいの時間、どのように滞在していたかをあらかじめ聞いておく必要があります。
患者様によっては「一日中リビングの椅子やソファーに座ってテレビを観ていた」という人もいますし、「日中のほとんどを自室で過ごして、リビングではご飯を食べるだけだった」という人もいます。
車椅子で日中リビングに座る機会がこれから増えるだろうと見込まれる場合は、車椅子クッションの必要性も検討します。
介護保険の福祉用具貸与で車椅子用クッションをレンタルすることができるので、制度も視野に入れて有効に活用しましょう。
病前に患者様がリビングの椅子に座っていることが多かったなら、椅子の高さは立ち上がりができる充分な高さがあるか確認します。
動作的に患者様が立ち上がりが可能な高さは、病院でリハビリをしている時に前もって評価しておくとスムーズです。
また、飲み物を取りに行ったりする時の移動(歩行or車椅子)の際も狭くて通れない場所がないかなどを確認しておきます。
寝室
寝室では、ベッドの必要性を考慮します。
高齢の方は昔の慣習で床に布団を敷いて寝起きすることを好む方が多いですが、床からの起き上がり動作と布団を押し入れに収納するのは体力に自信がないと簡単ではありません。
多くの患者様は、退院後に介護保険でのレンタルを使って電動ベッドを設置します(要介護度によります)
家屋調査では寝室に
- 電動ベッドを置くスペースがあるか
- 枕の向きをどちらにするか(テレビが見えるか)
ちなみに電動ベッドは、シングルサイズの場合 幅約100cm×長さ約200cmのスペースがあれば設置できます。
メジャーなどで設置可能なスペースがあるか確認します。
トイレ
家屋調査の中でもトイレのチェックは特に重要です。
- リビングからトイレ
- 寝室からトイレ
トイレで問題となるのは、便座からの立ち上がり動作です。便器の高さは通常40㎝程度です。
40㎝の高さから立ち上がりができないとトイレ動作が困難ということになります。
入院中に評価をしておくべきポイントになります。
手すり
トイレで便器からの立ち上がりができるけれど、不安定で転倒の可能性がある方にはトイレ内の壁に手すりを取り付けます。また、夜間の体が動きにくい状態でも安全にトイレ動作ができるように考慮しなければなりません。
トイレの手すりは便座から約20〜30cm前方に縦手すりがあると、それを掴んで立ち上がりがしやすくなります。
これも先ほどの玄関の要領と同じで、座った時(椅子の高さ40cm程度)に手を真っ直ぐ前に伸ばした時の地面からの高さと、立った状態で同じ動作をした時の高さを計測しておけば、自然と必要な手すりの長さが分かります。
座った時に床から手の高さが50cm、立った時に90cmであれば、手すりの高さは最低40cmは必要になるということですね。
よくL字型の手すりがトイレに取り付けてあるのを見ますが、トイレの横手すりでは座位保持がしにくい、あるいは座位が不安定な方が使用します。
自宅に帰れる方は座位保持がしっかりできる方も多いので、そういった方にはL字型の手すりを取り付けなくても縦手すりだけでも充分な場合もあります。
無駄な手すりは付けないことが住宅改修の鉄則です。
なぜなら「邪魔になるだけ」というのも当然ですが、住宅改修の補助の限度額が20万円と決まっているからです。
使わない手すりを付けてしまって、数年後にまた新しい手すりが必要になった時に改修枠が残っていない、という事態は避けたいものです。
洗面所
洗面所では、着替えを立って行えるかを前もって確認しておき、必要であれば手すりや椅子の設置スペースがあるか検討します。
車椅子で移動する方の場合は、車椅子から座ったままだと洗面所に手が届かない場合がほとんどなので、洗面をどうやって行うと良いか本人・家族と相談します。
風呂場
お風呂はデイサービスで入る方も多いですが、自宅で入る方は福祉用具や手すりが必要になるケースが多いです。
風呂場では、
- 浴室内の移動
- 浴槽のまたぎ動作
- 洗体動作
- 浴槽内の着座・立ち上がり動作
浴槽のまたぎ動作について
またぎ動作はその人の身体能力に応じて、- 座ってまたぐ
- 立ってまたぐ
どちらが患者様に適しているのか、入院中にリハビリで評価しておきます。
座ってまたぐ場合は、バスボードなどの福祉用具を利用します。
これらの入浴関連用品は、直接肌に触れるため衛生的に問題があり、介護保険でレンタルすることができません。
「特定福祉用具」といって、定められた項目の入浴関連の福祉用具であれば、介護保険を使って申請することで1割〜3割の自己負担額で購入することができます。
参考)特定福祉用具 品目(直接肌に触れるものばかりです)
- 腰掛便座
- 自動排泄処理装置の交換可能部品
- 入浴補助用具
- 移動用リフトのつり具の部品
体を先に洗ってから浴槽に入る方の場合、シャワーの位置にも注意してまたぎ動作をする方向に手すりを付けないと使えない手すりになってしまいます。
(多くの場合、シャワーが終って立ち上がったままの体の向きでまたぎ動作を行います)
浴槽内での着座・立ち上がりには「縦」手すりを必要とする方が多いです。
浴槽内の排水溝の位置を確認し、その逆側に患者様が座った時に手の届く位置に縦手すりの取り付けを検討します(排水溝の上には基本的に座らないため)
浴槽内に座り込んでしまうと手すりがあっても立ち上がれない方は、浴槽台という福祉用具を浴槽の中に沈めてその上に座るようにして入浴することになります。
こういったタイプの商品は、吸盤で床にくっついてお湯の中に沈めても浮いてこない仕組みになっています。
吸盤ではなく、自重で浮いてこないタイプのものもあります。
しかし、この浴槽台を使用すると全身湯船に浸かれず、半身浴の状態になることに注意が必要です。
また、「浴槽台自体の掃除が大変だ」という声も聞かれます。
できれば使わずに入浴できると理想です。
風呂椅子
市販されている風呂の椅子は低いものが多いので、一度座ってしまうと立ち上がりができない方も多いです。その場合にはシャワーチェアという福祉用具を導入します。
シャワーチェアも上述の特定福祉用具(入浴補助用具)になるので、1割〜3割の自己負担額で購入が可能です。
最近はホームセンターでも安く売っているので、すぐに欲しい場合はそういったものでも代用できます。
洗体動作
FIM(ファンクショナル・インデペンデンス・メジャー)でもセルフケアの「清拭(入浴)」の項目で足先を洗えない方は非常に多く、「階段」「浴槽移乗」に次いで難易度が高いとされています。背中を洗うなどの動作も難しく、介助が必要な場合も多いです。
- ループ付きタオル
- 柄付きブラシ
介護者に洗ってもらう必要がある場合はどうするかということも視野に入れて提案をしていきます。
階段
階段を使って2階に移動する必要がある方や、リビングが2階にある方は階段にも手すりを取り付ける必要があるため、しっかりと見ておく必要があります。
また、リビングが1階にある方でも、洗濯物を干す場所(ベランダ)が2階にある場合は、階段を毎日昇降するというケースもあります。
家族の他の方が洗濯をしてくれる場合は、できるだけ2階に上がらなくても生活できるように考えてみるのもひとつの方法だと思います。
手すりがあっても階段昇降は基本的に危険を伴います。
各部屋入口の敷居(段差)
各部屋の入り口には、少し前に建てられた家屋であれば敷居があったり段差があったりします。
これは構造上、部屋の入り口から埃などが扉の開閉に伴って床を舞って部屋に入り込んでしまうことを防ぐために設置されているものです。
しかし、この敷居や段差は車椅子や歩行器を使って室内を移動する方にとっては障害となる可能性があります。
動線上、どうしても敷居の段差がバリアとなる場合は、簡易の設置式スロープを設置することで車椅子や歩行器が通過しやすくなります。
このスロープもビス止めすれば、介護保険の住宅改修対象(段差解消)となり、軽度の自己負担で購入・施工することができます。
(※ビス止めせず、置くだけの場合は介護保険で住宅改修として認められません)
もう一つの方法としては、スロープを置かず、その敷居の構造によっては敷居自体を工事で取ってしまうことです。
特に、床に敷居を乗せているだけの構造であれば簡単に撤去することができます。
一度、業者さんに相談してみましょう。
しかし、その際は敷居を撤去した分、ドアの底に木片を取り付けることになるので、その部分だけ色が少し変わってしまったり、埃が部屋に入りやすくなってしまうなどのデメリットもあります。
頻繁に通る場所であれば、スロープを置くよりも敷居自体を撤去する方がバリアフリーとなり、より移動しやすくなります。
まとめ
筆者も回復期の病院勤務時代は家屋調査を頻回に体験しました。限られた時間で家全体を見る必要があり、事前に患者様に合った手すりの高さを調べておいたり、話を聞いて問題がありそうなところを集中的に見ていく「段取りの良さ」が重要だと思います。
現場に着いてから諸々を評価していると時間が足りなくなるので、病院でできる評価は前もってしておく必要があります。
手すりの長さなどは上述の方法を使えば現場で採寸する必要もありませんし、簡略化できます。
ぜひ参考にしてみてください。
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