先日、作業療法士で「一般社団法人 日本作業療法士協会」副会長、「山梨リハビリテーション病院」リハビリテーション部副部長の山本伸一先生をお招きし、メディケア・リハビリ研修会「脳卒中の日常生活活動│上肢機能アプローチを再考する~回復期から在宅へ向けて~」をオンライン開催しました。
当日は、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士など、多職種の方 70名以上にご参加いただき、楽しく学ぶ時間となりました。
この度はご参加いただき、誠にありがとうございました。
メディケア・リハビリ研修会「脳卒中の日常生活活動│上肢機能アプローチを再考する~回復期から在宅へ向けて~」
日常生活動作の中で「手を使う」。
当たり前のことですが、それが病や障害を負ったこと当たり前ではなくなることもあります。
医療・介護に関わる者は、そのことを認識し、治療や環境設定、人との関わりに繋げながら、その人の人生を伴走する存在です。
脳卒中を専門にしている山本先生とともに、脳卒中の方の日常生活動作を再考し、支援することを一緒に考えました。
今回は、お話の中でも特に「食事介助」の部分に焦点を当ててまとめました。
脳卒中の麻痺とは
そもそも麻痺とはなんなのでしょうか?
山本先生曰く、
麻痺とは、感覚・知覚障害が起きること。感覚・知覚の状態が機能しづらくなっている状態のこと
なのだそうです。
また、脳卒中による麻痺は一人ひとり違い、十人十色の症状があります。
そのため、全員を同じ治療法で対応することできません。
もちろん、ロボット治療などでもある程度の効果はあります。
しかし、一定以上はオーダーメイドの治療が必要となってきます。
脳卒中障害像の整理<上肢>
脳卒中になると屈曲位になりやすいという特徴があります。
では、なぜ屈曲位になりやすいのでしょうか?
その原因には、次の3つが挙げられます。
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重力
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身体の構造(円柱状の構造)
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肩関節(不適合関節)
痙性が強まった場合、背臥位になったときに重力が掛かると、弛緩した上腕が外旋方向に転がります。
一方、再生能力があるので前胸部~頚部が外に転がらないよう痙性が起きます。
こうなると、肩甲から上腕間も痙性が起きて硬くなり、上腕骨の回旋が機能しづらくなります。更に肘が屈曲方向に痙性が起き、肘~手首にも屈曲痙性し、手掌内の痙性と短縮が起きます。
つまり、頭・肘・指先が点で止まっているような感覚になるということです。
上肢機能をより機能的にするためのアプローチ
①筋の長さを保ち、変位した筋・関節アライメントを修正・活性化する
②姿勢アライメント・筋連結をより正常化した中で潜在能力を看る
<アプローチ1>
皮膚や筋の状態(長さ、伸縮性)をベターにする。
<アプローチ2>
複合的な関節運動(回旋運動)によって、手の感覚・知覚状態を向上させる。
<アプローチ3>
受容器が動くために、可能な限り「能動的な動き」となること。
<アプローチ4>
CVAの場合、肩屈曲120度あたりまで確保する。
<アプローチ5>
道具を持つ手は「Active-Touch」になっていること。
指の1本1本の回旋の角度が違う対象物に対する「自然な」Fit感。
ADL<食事>の診かたのポイント
ADLアプローチはどうあるべきか
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①手順を教えるADL指導
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②福祉用具を用いた介入
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③環境整備
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④ご家族・介護者等に対する指導→対象者の個別性に応じた介入
①~④を行うことはとても大切です。
一方、治療用具等の組み合わせや運動療法との組み合わせ、感覚・知覚適応アプローチも必要になってきます。
脳卒中対象者本人の状態:
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車いすの背もたれやアームレストに身体を押し当てた状態で姿勢を保持。
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食事道具の操作の拙劣さ
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食べこぼしが多い
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むせがある
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誤嚥性肺炎のリスクを伴っている
ADLと食事をする道具の関係
たとえば、「スプーン」と「フォーク」。
あなたは麻痺がある人にとって、どちらの方が道具として扱いやすいと思いますか?
答えは「スプーン」です。
なぜなら、スプーンは食べ物を掬うので、口に入れる量が自分で決められるからです。
フォークは突き刺して食べるので、対象物が大きいと大きいまま口の中に入れなければならりません。
ADLには「道具を扱う」ということが必ず関係してきます。
道具の操作には、まず長さの把握が必要となります。
たとえば、目をつぶっていても手に持っている鉛筆を振れば「この鉛筆はこれくらいの長さだな」ということが分かります。
この「長さ」が分かって、私たちは初めて道具を扱うことができるのです。
しかし、麻痺がある人はこの「長さ」が分かりづらいため、こぼしてしまうことが多くなります。
脳卒中の麻痺がある人の<食事>の問題
【例】
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一度にたくさんの量をすくう
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口へ運ぶ途中で食材をこぼす
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食材に応じて口の大きさを変えられない
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スプーンの横からすすり、こぼれてしまう
【問題点】
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姿勢に加えて食べ物の対象知覚、視空間知覚、触運動覚、聴覚などに問題を抱えている。
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上記の状態であるとき、対象者は過緊張状態になりやすく、食べ物との協調関係が取りづらくなり、「食べる」ではなく「物を口に入れる」という感覚になる。
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「物を口に入れる」という感覚では「おいしく食べたい」という欲求が低下し、だ液の準備など、口腔期・咽頭期・食道期にも影響が出てくる。
食事行動における介入ポイント
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食事活動への介入は生理的欲求でもあることから難しい
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本人の「食べる」を邪魔しないこと
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道具の操作側上肢では、肩・肘を介助する
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肩の拳上・肘の後退が可能であれば、無理のない範囲で避ける
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状態によっては体幹を介助し、前方への重心移動を誘導する
スプーンでの食事介助のポイント
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スプーンは前方から口に入れる
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口から抜く時は、スプーンの丸みに沿って抜く
この2つが大きなポイントになります。
スプーンを自分で使うとき、私たちは前方から口に入れますよね。
介助するときも、介助だけを考えるのではなく、ご本人が「食事をしている」ということを念頭に置いて介助することが大切です。
また、口からスプーンを抜く際、真っすぐ引いてしまうとスプーンの丸みの部分に具材が残ってしまいます。
スプーンという器具をきちんと使うため、口から抜く時はスプーンの丸みに沿って抜くことがポイントです。
まとめ
脳卒中の麻痺は一人ひとり違い、オーダーメイドの治療が必要です。
日常生活動作の中でも<食事>にスポットを当てた時、姿勢に加えて食べ物の対象知覚、視空間知覚、触運動覚、聴覚などに問題を抱えていることが多くあります。
また<食事>は生理的欲求でもあるため、介入時にはご本人の気持ちを大切にし、ご本人の「食べる」を邪魔しないように気を付ける必要があります。
私たちは「物を口に入れる」ことを支援しているわけではありません。
「食事をしている」「おいしく食べたい」というご本人の欲求を念頭に置いて介助することが大切です。
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