厚労省の令和3年人口動態統計月報年計によると、肺炎で亡くなる人は、国内で年間約12万人と推定されています。また、年次でみると減少傾向ではあるものの、死因の原因疾患として肺炎は第5位に入っています。また、高齢になるにつれ、肺炎になりやすい傾向もあるため注意が必要です。
肺炎とは
肺炎とは、細菌やウィルスが肺の中に入り込み炎症が起きる病気のことを指します。健康な人は、細菌やウイルスをのどでブロックします。しかし、免疫力が落ちている時は、細菌やウイルスがのどや器官でブロックできず肺まで侵入してきてしまい、肺で炎症を起こしてしまいます。
原因
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細菌、 ウイルス、 抗酸菌、 真菌、 寄生虫などの様々な微生物。
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75歳以上の高齢者のほか、肺や気管支など呼吸器の病気、心臓や肝臓、腎臓の病気、糖尿病、がん、関節リウマチなどの持病がある。
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ステロイド薬、免疫抑制薬、生物学的製剤などの薬を使っている場合も、免疫機能が低下し、肺炎を起こしやすくなる。
肺炎を起こす原因として最も多いのが病原微生物の感染です。その中で最も多いのが肺炎球菌です。日本人では、高齢者の3〜5%の鼻やのどの奥に住み着いていると考えられています。免疫機能の低下や誤嚥により肺炎球菌を気管に吸い込んでしまうと、肺炎を発症しやすくなります。
他にも、
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嚥下(えんげ)障害
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食べ物や唾液などを飲み込む働きがうまくできない。
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咳反射(せきはんしゃ)の働きの低下
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口の中が清潔に保たれていない
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体力や抵抗力の低下
が大きく関係しているといわれています。
肺炎の種類
肺炎には2種類あります。
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間質性肺炎
吸った空気は、通り道である気管支を通り、「肺胞」という袋状の組織に繋がっています。この肺胞の壁のことを「間質」といいます。一般の肺炎は、肺胞の内部に細菌などが感染することで起こりますが、間質性肺炎は、間質に炎症が起こります。間質性肺炎の原因は、じん肺、薬剤性、過敏性、ウイルス性などさまざま要因がありますが、原因不明のものも多くみられます。この原因がわからない間質性肺炎を、「特発性間質性肺炎」といいます。
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誤嚥性肺炎
食べ物や唾液などが、本来は口から食道へと送られるものが、誤って気道に入り込んでしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。誤嚥した際に、口の中やのどにいる細菌やウイルスが食べ物や唾液と一緒に気管から肺に入ると、誤嚥性肺炎が起こります。誤嚥性肺炎は、65歳以上の高齢者に起こる肺炎の多くを占めています。
肺炎の症状
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咳や痰
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喘鳴(ぜいぜいと声をだしながら息をする)
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呼吸をするのが苦しい
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発熱や食欲低下、脱水症状
特に高齢者の場合、症状が分かりにくいため、気づいた時には重症になっていることがあります。発熱、元気がいつもよりなかったり、食事の量が減っている場合などは注意が必要です。
肺炎が高齢者に多い理由
持病などでもっている慢性疾患があること、年齢により免疫機能の低下があることが大きな要因と考えられています。たとえば、慢性気管支炎、気管支ぜんそく、肺気腫、肺線維症など、呼吸器の疾患がある人は、気道や肺が炎症を起こしている状態のため、ウイルスが侵入すると感染しやすい状態にあります。
また、肺炎になると慢性疾患も悪化し、呼吸困難に陥りやすくなります。さらに、全身疾患である腎不全や肝硬変、糖尿病など、内臓の慢性疾患を持っている場合も、免疫力が弱くなっている場合があり、細菌やウイルスに感染しやすく、肺炎にかかりやすいというリスクを持っています。
肺炎のリハビリテーション
肺炎になると、息苦しさや痰絡みなどで活動量が減ってしまい、筋力低下や持久力低下、換気機能低下(肺の空気を入れかる機能の低下)などが起きます。運動を行うことで、いろんなメリットがあります。
運動することのメリット
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筋肉に酸素を取り込みやすくなり運動機能が改善する。
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感染に負けない体力がつく。
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息切れが軽くなり生活の質が改善する。
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息苦しさのため入院する回数や入院日数が減る。
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健康寿命を延ばすことができる。
呼吸法
常に質の良い呼吸を行い、体内の換気能力の向上を行うために呼吸法を習得します。呼吸方法を2つご紹介します。
呼吸方法①腹式呼吸
横隔膜を使いお腹から呼吸することで、一度の換気量(呼吸によって得られる空気の量)が増加し、効率的に無駄なく呼吸できるようになります。
【方法】
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仰向けに寝て、片手を腹部、もう一方の手を胸部の上に置きます
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「1、2」とゆっくり数を数えながら鼻から息を吸います。腹部が膨らむのを手で感じましょう。
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「3、4、5」とゆっくり数を数えながら、今度は口から息を吐いていきます。そのとき、お臍が床に着くイメージでお腹を凹ませましょう。
呼吸方法②口すぼめ呼吸
呼吸器疾患のある人は、気道が細く塞がりやすい傾向がありますが、口すぼめ呼吸を繰り返すことで気道を拡張し、息を吐きやすくします。
【方法】
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腹式呼吸と同様、「1、2」とゆっくり数を数えながら、鼻から息を吸います
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「3、4、5、6」とゆっくり数を数えながら、吸ったときの倍の時間をかけて、ゆっくりと息を吐いていきます。その際、ロウソクなどの火を消すときのように口をすぼめて行いましょう。
呼吸法③排痰法
痰は、吸い込んだ空気中の細菌や体内の分泌物などが、気道の粘膜に付着することで発生します。体調不良時に分泌物が増加したり、また呼吸機能が弱まって気道内気流低下が発生したりすると、痰の量が増加します。痰が溜まりやすくなると、気道が狭くなり息切れや詰まることがあるため、排痰法を身に付けておくことが大切です。
ここでは、「ハフィング」という方法をご紹介します。
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数回深呼吸をした後、勢いよく「ハッ!ハッ!」と声を出さずに息を吐き出し、胸部を圧迫します
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その後、軽く「コホン」と咳をします。1~2までを数回繰り返して行います。疲労感や息苦しさを確認しながら行ないましょう。
運動療法
発熱や症状が収まってから行います。運動療法は、体の筋力の維持・向上、胸郭や手足の関節可動域の維持を図ります。また、有酸素運動を取り入れることで呼吸機能の維持や改善を目的としています。肺炎予防にもおすすめです。
歩行トレーニング
ウォーキングは、安全かつ比較的楽に続けられる運動の一つです。足腰をはじめとする体全体の筋肉を鍛え、心肺機能の改善、息苦しさや息切れなどの症状の改善を目指します。歩く際は、大股で歩くことでさらに筋力強化に繋がります。
筋力トレーニング
特に足腰の筋肉を重点的に鍛えることで筋力の維持・改善を図り、外出時などの息苦しさや息切れ、疲労感の軽減と改善を図ります。息苦しさや痛みなど、確認しながら行います。また、呼吸筋である横隔膜を鍛えることで、酸素を取り込んだり、吐いたりすることが楽にできるようになります。
ストレッチ
呼吸器疾患を持つ人は、胸部の筋肉が硬くなりやすいです。硬くなると十分に胸郭が動かなくなってしまいます。その状態で呼吸をすると胸郭が動きにくくなり、十分に酸素が肺へ入りにくくなり、必要以上のエネルギーを消費しています。そのため運動を行なっても、息苦しさや疲労感を増幅させ、非効率となってしまいます。呼吸筋をしっかりとストレッチして胸郭が広がりやすい状態をつくり、効率的で楽な呼吸運動ができるように行います。
日常生活で気を付けること
肺炎になると息切れがあるため、日常生活に支障がでます。
息切れを予防する
息切れ予防の方法として「動作と呼吸を意識する」ことが大切です。たとえば階段を上るときに「歩き出す前に息を吸い、息を吐きながら階段を4段上がる」といった長く息を吐く方法です。
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日常生活での工夫
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靴下の着脱時などには座って足を組み、身体がおじぎしないようにする。(胸やお腹を圧迫しないため)
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排泄の時は、力みによる息切れ悪化を防ぐこと
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入浴や洗体動作時には背もたれつきの椅子を使う
まとめ
肺炎は日本での死因第5位に入っており、誰でも知っている、有名な疾患です。リハビリテーションを行うことで、心肺機能や筋力の向上を図ることができます。肺の機能低下は肺炎になる可能性が高くなるため、リハビリテーションは予防にもとても大切になります。
参照)呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法―第2版(2012年)、令和3年人口動態統計月報年計