今回は、国際誌「PeerJ」で英語論文が掲載されたメディケア・リハビリ訪問看護ステーション福島所属の作業療法士 蕨野 浩さんに国際論文についてインタビューをしました。
今後、専門職(看護師・療法士)として「論文を書いてみたい!」と考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
蕨野さんが書いた論文が掲載されている”「PeerJ」WEB版”はこちら
I:インタビュアー
蕨野:国際誌「PeerJ」に英語論文を掲載した弊社社員(作業療法士)
作業療法士・蕨野さんの研究内容とは?
I:今回の研究の概要を教えてください。
蕨野:ご利用者のADLを評価する方法として代表的なものはFIM※1やBI※2があります。
しかし、これらは項目が多く、専門職ではないと評価の妥当性を担保することが難しいという側面がありました。
そこで、ご家族やチームで介護や医療を提供する誰もが簡単に、そして短時間で評価できる評価尺度を作り、その信頼性と妥当性を検討する研究を行っています。
※1.FIM(Functional Independent Measure:機能的自立度評価法)は、リハビリテーションで用いられる評価ツールで患者の自立度を身体的な機能(13項目)、認知機能(5項目)について18項目測定し、その回復状況やリハビリの効果を評価するために使用される。
※2.BI(Barthel Index:バーセル指数)は、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)を評価するための指標で、主にリハビリテーションにおいて使用される。
BIは脳卒中やその他の疾患によって生じた機能障害FIMと同様に、患者の自立度を測定し、10項目を測定する。
蕨野:具体的には、SAB-Mという評価尺度を使います。
SAB-Mという評価尺度は、これまで病院でのみ信頼性と妥当性が明らかになっていました。
しかし私の研究により、在宅のご利用者家族が行っても信頼性と妥当性が担保されるということが明らかになりました。
I:国際誌に掲載される研究ということで、英語の基礎知識は必要になりますか?
蕨野:はい、査読も英語で行われるので、英語で書きました。
和文も何度か書いたのですが、国際誌はやりとりも英語になるので「何を意図しているのか?」を読み取ることにすら苦労しました。
自分でも勉強しながら、翻訳機も使ってなんとか作成することができました。
国際誌掲載について
I:なぜ日本の専門誌ではなく、国際専門誌に投稿されたのでしょうか?
蕨野:日本の専門誌への投稿はこれまで何回かやっているので、「今後はもっと新しいことにチャレンジしたい!」「自分の考えを広めたい!」という気持ちがあったからです。
また、これまでの専門誌への投稿経験から「これからは日本だけではなく、海外も視野に入れる必要がある!」と考えたからです。
研究チーム内でも、国際的な信頼を得ておくことも大切だという結論になりました。
とはいえ、実は4回ぐらい投稿に失敗しているんですけどね(笑)
今回掲載してもらえた「PeerJ」以外にもいろいろと投稿をしていたのですが、掲載までに時間がかかりました。
途中で諦めそうになることもありましたが、最後は意地ですね(笑)
I:諦めそうになっても、投稿しようと思えたのはなぜですか?
蕨野:チームでトライをしていたので、モチベーションを持ち直すことができたのが大きかったと思います!
実際に「励まし会」があったり、最後まで応援してくれた人もいて、本当にチームをはじめ周りの人たちの支えがあったからこそ掲載できたと思います。
データ収集に関していえば、メディケア・リハビリの訪問看護ステーション全事業所が協力してくれたので、とても感謝していますね。
やっぱり在宅分野でこのような大規模なデータ収集ができるのは弊社ならではだと思います。
I:本当に大変だったと思います。一方で、考えていたよりも上手くいったと思うことはありますか?
蕨野:上手くいった、とは少し違うんですが、国際誌「PeerJ」の対応がとても丁寧だった点ですね。
"研究のお作法"として「こういうのは書かないとダメですよ」みたいなこともやり取りの中で勉強させていただきました。
I:投稿するだけで2年ということは、研究を始めてから公開されるまではもっと時間が必要だったということですよね。
実際には、どれくらいの時間がかかったのでしょうか?
蕨野:9年前に大学院に相談に行ったのがきっかけで研究自体が始まりました。
全部含めると10年近くかかっていますね。
I:10年!長い年月をかけたからこそ素晴らしい論文ができあがったと思うととても感慨深いですね。
蕨野:そうですね。この研究を始めた時は勢いがありましたが、今は年齢も重ねたので、ちょっと休憩したいですね(笑)
医療・介護の在宅分野で今後必要なこととは?
I:蕨野さんが医療・介護における在宅分野でほかに必要だと思うリハビリの評価はありますか?
蕨野:メディケア・リハビリでは、通所介護(デイサービス)に2年、訪問看護で9年、合計11年勤務しています。
その中で、私は在宅医療・介護の要になるものが「連携」だと考えています。
私が学生の頃から「連携が大切」と言われていて、今でも「連携、連携」と言われていることを考えると、いまだにチームや地域との連携が課題として残っているんだと思います。
もちろん、みんな重要だと分かっていると思いますが、それでもなかなか実現できないのが現状だと思います。
I:確かに連携はとても大切なことだと言われてきていますね。
蕨野:そうなんですよ。そこに対して「誰でも評価できる共通の尺度」を作ると連携が上手くのではないかと考えています。
今回はそれが研究という形で成果を得ましたが、私は”研究”にこだわっているのではなく「連携しやすくなるためにはどうしたらいいかな?」「この尺度についての研修を行のはどうかな?」など、色々と模索している最中です。
たとえば、ヘルパーさんだけが介入している高齢の方などは、身体機能の変化を捉えにくかったりするので、介護保険サービスがあまり入っていない方でも簡単に介護度(介護が必要なレベル)が数値化できること、継続的に評価できることが大切だと考えています。
ケアマネージャーさんの月1回の訪問時にSAB-Mを使ってもらえると、早期介入に繋がり、結果的にその方のより良い生活期間を延ばすことができるのではないかと考えています。
I:実際の評価項目はどんな感じなのでしょうか?
蕨野:介護度を中心に評価していきます。
FIMとも似ていますが、もっと簡単な最小限の項目で構成されています。
簡単にいうと「どのくらい介護されているか?」で評価します。
今回の研究はSAB-M(motor=運動器)ですが、SAB-C(cognitive=認知)もチームで行っているので、認知機能面も評価できます。
I:メディケア・リハビリにも居宅介護支援事業所があるので、居宅も含めて導入できると素晴らしいですね。
ケアに関わる人の「共通言語」になるのでは、と私は考えています。
蕨野:そうですね。ただ、今は研究を発表して紙ベースの信頼性・妥当性をクリアした段階だと思っています。
今後は、使用感だったり使いやすさを検討できればと考えています。
使ってみての反応をいただけると嬉しいですね。
今は使用感を検討するにあたり、アプリ開発企業と話をして、スマートフォンアプリとして使ってもらうなどの話を進めています。
I:訪問の現場で使えるようになるのはいつ頃になるのでしょうか。
蕨野:紙ベースであれば、今からでも使うことは可能です。お声かけていただければすぐに資料をお渡しさせていただきます。
I:最後に、論文を発表したいと思っている看護師・療法士に向けて一言お願いします。
蕨野:すごく良い経験になるので、ぜひ前向きに検討してほしいです。
なんでもそうですが、やってみないと良さも何わからないので、学会発表から段階的にチャレンジしていくと良いのではないでしょうか。
もちろん、お声かけいただければ、私もご協力させていただきます。
実際に研究する際は、チームを組んで進めるのがおすすめです。
会社の中でもチームを組むことはできます。
辛い時に励ましあったり、お互いに協力しながら進めていくことが大切だと思います。
メディケア・リハビリには、研究ができる環境を提供してもらったり、データを取るなど積極的に協力してもらいました。
研究の成果を、ご協力いただいたみなさんにお返しできるようにこれからも尽力していきます。
まとめ
今回は、国際論文を発表されたメディケア・リハビリ訪問看護ステーション福島の作業療法士 蕨野 浩さんに、論文についてのインタビューをしました。
専門職としてのキャリアアップとして、論文の執筆は大切なステップです。
お話を聞くと長い年数をかけて丁寧に作業に取り組んだんだなと感じました。
また、蕨野さんは「チームで取り組むことが大切」と何度も言っており、他者と協力関係を築きながら一歩一歩進めていくことが大切だと改めて感じました。