言語聴覚士(ST)から見た北欧の医療介護・福祉

スウェーデンの画像 街並み

平成30年11月11日〜17日に弊社職員がスウエーデンとフィンランドの介護福祉施設へ海外研修に伺いました。
今回はそのレポート記事です。

スウェーデン ストックホルムの施設

1日目

スウェーデン ストックホルム

こちらの施設のレクリエーションプログラムには、1日360名もの方が参加されるそうです。
施設にケアスタッフはおらず、送迎・帯同はそれぞれ自己負担で行われています。
プログラムで人気なのは映画やヨガで、他にもキノコ狩りやカーリングなど季節毎の外出イベントも豊富に用意されていました。

棒体操 女性 高齢者

プログラムのひとつである棒体操の講師は93歳の先生。
30分近くも楽しく棒体操を行なっているのが圧巻でした。参加者も先生がいることで「90歳を超えても元気でいられるんだ!」という気持ちになり、モチベーションが保たれているようでした。

この施設にはカフェやレストランが併設されており、通いの方はそこでゆっくりと過ごすこともできます。
そのほか、市立図書館の分所(高齢者しか利用できない)や手芸教室にも参加されていました。

2日目

天皇陛下も訪問された、シルビア財団の運営する認知症のデイケアセンターに伺いました。
ご利用者8名〜10名に対し4名の「シルビアシスター」が対応されています。
シルビアシスターとは、日本で言う「認知症認定看護師」のようなものです(シルビア財団の認知症ケア知識を共有してる職員を)

スウェーデンでは、認知症を「治らないもの」と捉えており、その観点からケアがはじまっています。

  • パーソンセンタードケア・・・個人の歴史背景を踏まえた上でアクセプトする
  • 症状緩和・・・症状が出にくいような対応をして周りが症状をコントロールする
  • 認知症は「身内病」とも呼ばれるため、ケアをしている家族のケアも行う

この3つのキーワードを軸にケアを行っているそうです。
特に、認知症者への対応としての「アクセプト」は日本でよく言われている「エラーレス」とはニュアンスが違っており、一人ひとりの異なる認知機能や人生歴、性格などを踏まえ、その人が今、どのような体験をしてどう感じているかを周囲の人が理解し、支えていこうというものでした。

ソファー 福祉用具

そのほか、調度品や住環境にも工夫が施されており、衝動的な気持ちを抑える効果のある抱かれるような座り心地のソファや、心地よく揺れる仕組みのベッド、トイレの壁紙を原色にして分かりやすくしたり、覗かれてると勘違いしないためのカーテンを引いたりなど、シルビアシスターの関わりの一端を垣間見ることができ、とても良い経験になりました。

フィンランド ヘルシンキの施設

3日目

この日はスウェーデンからフィンランドへ移動し、ヘルシンキ市内にあるプオティラ老人施設を視察しました。

フィンランドでは、

  • 公的な医療機関
  • プライベートな医療機関

の2つの医療機関あり、公的な医療機関では待ち時間が長く、プライベート医療機関では待ち時間はないが、診察にかかる医師の時給を支払う(風邪程度でも高額な支払いとなる)とのことでした。
施設に関しては健康な状態でも入れる私立の介護施設(自費)と、医師の指示に基づき、介護レベルで入所が決まる公的施設に分かれるとのことでした。

公的な施設は収入に応じた費用が設定され、払い切れない場合は市が補助する仕組みになっているそうです。

訪問先の施設はその2つのタイプが入っており、賃貸型が107室、認知症者用が18室、精神型が18室の合計143室でした。
賃貸型は主治医も入居者が選択し、リハビリ、ヘルパー等のサービスも自己選択・自己負担とのことでした。

フィンランド 女性 高齢者

賃貸型の入所者の方にお話を伺うと、入所後も施設外で家族とパーティーをしたり、出かけたりすることも多く、困った時には腕時計タイプの緊急通報システムを5割の方が使っているとのことでした。

福祉用具は市から無償でレンタルでき、施設スタッフの腰痛予防としてポータブルタイプのリフトや立ち上がり補助リフトなどを利用されているとのことでした。
そして、これはフィンランドならではといったところでしょう。サウナも完備されていました。
入居者への工夫としては「つまらない、分からない」を無くすことや、アニマルセラピーを行なっていることも印象的でした。

4日目

フィンランド テラス 森林浴

エスポー市 ヴィラアンダンテへ。
高級有料老人ホームであるこの介護福祉施設は、中庭もあり各棟にコックもいます。
夏の期間は中庭で森林浴をされることも多く、一年を通して音楽の演奏がよく行われているとのことでした。

入居者の方が快適に暮らすための工夫として、認知症の方にはフロアごとに色分けがされ、各部屋には顔写真を。
医療サービスとしては、理学療法士が施設に訪問し個別訓練を行い、年に一回、歯科衛生士が検査に来るとのことです。
食事面では、必要に応じて牛乳で薄める、ムースにするなどの工夫をされているとのことでした。車椅子でのベルト装着は医師の許可があれば可能だそうです。

この日のエスポー市2つ目の視察先は、「LEPPAVVARA LIFE AND LIVING CENTRE」。
デイケアセンターと入居施設が併設されている市営の施設です。

フィンランド 食事

こちらではお昼ご飯をご利用者の方と一緒にいただきました。
この施設にはSTが定期的に巡回しているとのことで、嚥下評価メインで常食からペースト食までは施設対応されているとのことです。
理学療法士も医療保険として訪問サービスがあるとのことでした。

多目的ホールでは、独立記念日のイベントをライブ配信でたり、ジムのプログラムを個別にカードで管理し、クラウドに保存されたデータに管理者がメッセージを加えて次のプログラムや負荷量も設定できたりするとのことでした。
また、スウェーデンと同じく、市立図書館が密接に関わっており、文化プログラムでは利用者が若い頃に読んだ本を用いながら回想法のようなプログラムもあるとのことでした。

フィンランドでは入居施設を家としてみなしており、福祉用具以外は自宅のものを持ってきてもらうとのことでした。車椅子は理学療法士が採寸し、市に申請してレンタルするとのことでした。

また、部屋の床にはセンサーがあり、感知した離床や転倒はすべてスタッフのスマートフォンにデータとして送られるとのことでした。

施設スタッフには17カ国の国籍者から構成され、移民・難民の受け入れも行われています。中には介護職になるためではなく、語学学習として施設に来ている方などもいるとのことでした。

フィンランドでは、公的施設入所の期間は2年〜3年が平均で、日本におけるターミナルケアに近い印象でした。
ちなみに食事は1日4食とティータイムで5回あるそうです。テラスで外気浴されながらティータイムを楽しんでおられました。

まとめ

日本と北欧の医療介護・福祉の違いについて


日本は要介護認定後、介護保険の上限額内でサービスを選択していきますが、北欧では医療介護サービスを受ける際、年金から自分でサービスを選択して受けるのが普通でした。

もし、生活費が足りなくなった場合は国から助成が出るとのことでした。

北欧の(医療)介護・福祉施設について

保険で賄われる公的な病院は待ち時間が長く、医師の時給を実費で支払う自費診療もあります。

また、介護施設は公的な施設の入所には医師の許可が必要となり、基本的には「部屋」ではなく「家」として扱われるようです。

自費で入る施設は、日本のサービス付高齢者住宅同様に存在しますが、施設入所後も自宅や友達など、外部との交流が多い印象でした。公的施設自体は平均入居期間が2〜3年と、日本の「ターミナル」に近い印象でした。

全体を通して

北欧にお住いの日本人の方にお聞きすると、「よく言えば自己選択と自立を促しているけれど、悪く言えば放置されていると感じることがある」と言われていたのが印象的でした。
年金や老後の生活資金を自己選択に任せるので、良い面と悪い面があるようです。日本の方が福祉制度としては手厚いともいえますし、逆に過剰サービスな面もあるのかもしれません。
ただ、デイサービスや日本でいう所の介護予防施設と地元の図書館が密接に連携していたり、福祉用具店が繁華街の中に当たり前にあったりと、障害や福祉と地域の距離は日本よりも近い様ように感じました。

医療福祉の模範となるイメージの強かった2か国の視察でしたが、その国々の事情・文化から、すべてを日本で反映するには難しい部分もあると感じました。

自立した生活を続ける工夫・障がい者への関わり・環境作り・移民政策・IoT関連の充実と今後の日本が進むだろう形の一部をイメージしやすくなったことは収穫でした。

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