高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)とは、『脳卒中や脳外傷によって、言語、思考、記憶、行為、学習、注意などの知的機能に障害が生じたもの」と定義されています。
片麻痺があり、手足の動かしにくさがあると、障害の有無が他者に分かる場合が多いです。
しかし、脳卒中や脳外傷後、半身麻痺はないものの、高次脳機能障害によって生活に不自由さを抱えている方の多くは外見では判断できません。
厚生労働省が平成28年に行った調査(平成28年生活のしづらさなどに関する調査)によると、医師から高次脳機能障害と診断された方の数は32万7千人と推定されています。
調査名からも分かるように、高次脳機能障害は「生活がしづらくなる」症状が多く出現します。しかも他人には理解されにくい場合が多く、そのことによって悩んでいる方も多いのです。
まずは、高次脳機能障害の種類と症状について簡単に説明します。
高次脳機能障害の種類
- 1 失語症
- 2 失行症
- 3 半側空間無視
- 4 記憶障害
- 5 遂行機能障害
- 6 社会的行動障害
高次脳機能障害は大きくこの6つに分けられます。
1つずつ以下に詳しく紹介します。
1、失語症
失語症とは、聴く・話す・読む・書くなどの言語機能の障害のことです。
失語症=話せない状態だけではなく、
- 相手の言っている内容は理解できるが、返事をする時に言葉が出てこない。
- 自分の思うように話すことはできるが、相手の言っている内容を理解できない。
など、失語症の症状は多岐に渡ります。
言語の障害はコミュニケーションを取る際に特に重要な役割を担うため、失語症と診断された本人は、自分の言いたいことがスムーズに伝わらない、という強い葛藤がある場合も少なくありません。本人の家族やその周りの人も『内容を理解できないもどかしさ』を感じ、お互いの関係性に大きな影響を与えることもあります。
2、失行症
先ほどの失語症が『言語』の障がいなら、失行症は『行為』に関する障害です。
「服を着替える」や「はさみを使って紙を切る」といった課題の意味は理解しているにも関わらず、実際に服を着替えたり、はさみを使って紙を切ることができない状態を指します。
3、半側空間無視
半側空間無視では、左側からの刺激や状況に対する認識が低下し、反応できないという症状が出現します。
視力に問題はないものの、「左側を認識する能力が低下した状態」です。
実際の生活場面では、歩いている時に身体の一部(左側)が壁にぶつかることが多かったり、食事の時、左側の料理を残してしまうなど、生活の多くの場面で支障が出る障害の1つです。
4、記憶障害
記憶障害は、経験したことや学習したことを覚えておくことが出来ない状態です。
高次脳機能障害の中では、イメージしやすい障がいの1つだと思います。直近に食べた食事やその日に行った行動は忘れていることが多いですが、昔やっていたスポーツの名前や仲の良い友達の名前など、昔のことは覚えていることが多いです。
5、遂行機能障害
料理の準備から調理、片づけができないといった一連の動作を実行、あるいは、その状況に合わせて行動を修正することができなくなる状態です。
他にも仕事を円滑に進めることができないなどの症状が存在します。
6、社会的行動障害
自分の感情をコントロールすることができず、自分勝手で自己中心的な行動が増えてしまう障害です。
他人に対して攻撃的になったり、1つのことに執着し、周囲と協調した行動ができない状態になります。
高次脳機能障害の対応
今回は、脳卒中後、入院中や退院後に悩むことの多い「失語症」と「半側空間無視」の2つを中心に対応を解説します。
失語症の方と会話をする時のポイント
■ゆっくり話し、分かりやすい言葉を使う
失語症の人と関わっている時によく聞く訴えが、「言いたいことが伝わらなくてイライラしてしまう」です。失語症がある方と関わっていると、多くの方から聞かれる訴えです。
特に家族の方との会話でイライラすることが多いようです。
例えば、「家族は今までと同じように話しかけてくれるけど、病気になった後は話を理解してもらいにくい」という訴えや、「もうちょっと、ゆっくり話して欲しい」、「返事を急かさないで欲しい」なども聞かれます。
ご家族もご本人も、コミュニケーションが上手くいかず、思わず早口になったり、ついつい口調が厳しくなってしまうことがあります。
そんな時は少し冷静になって、ゆっくり話したり、単語で区切るように話したり、難しい言葉を避け、分かりやすい言葉を使うようにするとお互いにストレスが少なくコミュニケーションが取れます。
また、イントネーションを強調して話したり、相手が言葉が出にくそうにしているときは、前後の会話の文脈から推測して、「〜のこと?」と聞くのも有効な場合があります。
■『はい』『いいえ』で答えられる内容にする
「今日の調子はどう?」など、漠然とした質問は答えにくいことが多いです。
「今日の体調は良い?」など、「はい」「いいえ」で答えらえる質問であれば相手も答えやすくなります。
言葉が出にくい場合、うなずいたり、首をかしげたり、指でOKサインを出すなど、ジェスチャーを活用することで円滑にコミュニケーションをとることも可能です。
失語症の方は一生懸命、会話を理解ようとしたり、適切な言葉を探しています。
会話をする時は、相手のペースに合わせて、静かな環境で会話をすることをおすすめします。
半側空間無視の方が安全に生活するためのポイント
■空間無視が無い、右側から声をかける
多くの人が左側の空間を意識できないことが多いです。
左側を意識することができない場合、右側から声を掛けると認識しやすくなります。
認識しにくい左側から話をすると、相手が驚いたり、精神的な負担になってしまうこともがあります。
■左側を確認する癖をつける
左側を意識することができない場合は、左側を意識して確認する習慣付けを行う必要があります。道路を歩く際なども、車や歩行者に接触してしまわないように、左側に注意向けるように習慣付けることが必要です。
車椅子に乗っている方は、移乗する際に左側のブレーキを忘れてしまうことがあり、転倒や転落してしまう可能性が高くなります。
右側のブレーキや肘置きのところに「反対も確認するように」や「左も見るように」など、注意書きをしておくこともおすすめです。
まとめ
高次脳機能障害がある方は外見からは判断がつきにくいため、他者になかなか症状を理解してもらえないという悩みが付きまといます。
しかし、周りの人の少しの理解と工夫で円滑にコミュニケーションが取れることも多いです。
ぜひ、上述の点を意識してコミュニケーションを取ってみて下さい。