認知症予備軍(MCI)とは?
最近、テレビなどのメディアでもよく聞かれるようになった「認知症予備軍(MCI)」についてご紹介します。
認知症予備軍のことをMCIと呼び、MCIとはMild Cognitive Impairmentの略で、軽度の認知障害の事です。
厚生労働省では、MCIを以下のように定義しています。
- 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害がある。
- 本人または家族による物忘れの訴えがある。
- 全般的な認知機能は正常範囲である。
- 日常生活の動作は自立している。
- 認知症ではない。
ここでは、軽度な物忘れがあっても普通に暮らせている状態をMCIと定義付けられています。
しかし、脳の認知機能は記憶だけではありません。
また、認知症には「アルツハイマー型」や「レビー小体型」など、原因によって様々な種類があります。
認知症だからといって、記憶障害が必ず先行するとは限らないのです。
最近では、記憶障害やその他の認知機能の障害の有無から、MCIを4つのタイプに分類する考え方(MCIのサブタイプ診断のためのフローチャート)もあり、物忘れのない、非健忘型のMCIも存在すると考えられています。
このように、現状、MCIには明確な定義はなく、認知症になる一歩手前、「健常」でも「認知症」でもない状態を指すと認識されています。
日本におけるMCIの数
平成25年の報告によると、平成24年の65歳以上の人口が3,079万人に対し、MCIの有病者数は約400万人に及ぶと推定されています。
この調査(都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応)では、MCIと認められた人の年齢は男女ともに80〜84歳がピークでした。
また、MCIで介護保険を利用している人の約9割が要介護1以下であることも報告されています。
このデータからも、MCIの患者さんは高齢で介護保険を使っていても、日常生活は概ね自立されていることが分かります。
総務省統計局(高齢者の人口)によると、平成30年の65歳以上の人口は3,557万人まで増加し、総人口に占める高齢者の人口割合は28.1%を占めているそうです。
高齢者の人口や人口割合は、2040年の時点まで毎年増え続けることがすでに推計されており、相対的にMCIの有病者数も増加していくことが予測されます。
認知症との違いは?
前述したように、MCIは健常と認知症の中間であるとされており、認知症になる前段階の状態を指します。
すなわち、医師の診断により認知症とMCIを区別しているのが現状です。
また、認知症になると自立した生活を送ることが難しくなるとされていることから、日常生活の自立度が判断基準のひとつとして参考にされています。
MCIを予防するために
2017年の認知症疾患ガイドラインによると、認知症になる危険性の高いものとして、
- 糖尿病
- 高血圧
- 高コレステロール
- 喫煙習慣
が挙げられています。
また、メタボリック・シンドロームは認知機能低下と関連があるとも言われています。
生活習慣病と呼ばれるこれらの危険因子は、高齢になってからではなく、中年期からの生活習慣による影響が強いとされています。
つまり、高齢になる前からバランスの良い食生活や運動習慣を心掛ける事で、将来的に認知症やMCIを予防できる可能性が高いと考えられます。
また、同ガイドラインには、ボードゲームをしたり、身体を動かしたり、人に会ったり、旅行に出かけたりするなどの余暇活動は認知症を抑制するとの報告が多いと記されています。
高齢になっても楽しめる趣味や一緒に遊べる仲間を見つけることも、MCIの予防に繋がるのかもしれません。
もし、家族がMCIと診断されたら?
MCIと診断されると、ご本人やご家族は「このままだと認知症になってしまうのではないか?」と不安に思われるかもしれません。
しかし、MCIと診断された人の中には、健常な状態まで回復するケースもあると言われています。
例えば、2017年の国立長寿医療研究センターの報告で、MCIと診断された高齢者のうち、4年後には14%は認知症に進んだものの、46%は異常がない状態に戻ったというデータがあります。
その一方で、現在、MCIから認知症へ移行する事を確実に防ぐ薬はないとも言われています。そのため、MCIの対応としては、まず生活習慣の見直しが重要であると考えられています。
とはいえ、これまでの習慣を見直し、生活を変えることは一人の意志で簡単に行えることではありません。
好きな物を我慢したり、気が進まない運動をしなければならないことにストレスを感じる方も多いのではないでしょうか。
そんな時こそ、ご家族や友人・知人など周囲のサポートが大切です。