高齢者の疲れやすさを、
「年齢のせい」
「持病のせい」
と不定愁訴として簡単に解釈してしまいがちですが、しかし、高齢者の「疲れやすさ」は活動低下の原因になります。
また、その裏に重大な疾患が隠れている場合もあります。
今回は、注意すべき高齢者の疲れやすさについて簡潔にまとめました。
運動を中止した方が良い基準についても書いていますので、ぜひ最後までお読みください。
不定愁訴とは
不定愁訴とは、何となく体調が悪いという自覚症状があるものの、検査をしても原因がわからない状態をいいます。はっきりとした病名がわからないために「年齢のせい」とされたり、更年期障害や自律神経失調症と診断されたりしてしまうこともあります。
しかし、場合によっては重大な疾患が隠れていることもあるので、精密検査を受けることをすすめています。
疲れやすさの原因
疲れやすさの原因は以下の3つが考えられます。1. 生理的要因‥‥‥「食べられない」「寝られない」などの生理的活動低下によるもの
2. 器質的要因‥‥‥「心疾患」や「貧血」などの疾患・病態によるもの
3. 精神的要因‥‥‥「気分が沈む」「落ち着きがない」などの精神機能障害によるもの
1.生理的要因による疲れやすさ
生理的要因による疲れやすさを判断するには、生活を観察したり、次の質問をしたりしてみましょう。「食事を摂れていますか?」
「しっかり眠れていますか?」
「忙しく動き過ぎていませんか?」
睡眠、食事、運動はセットです。
これらのバランスを取ることで始めて健康的な生活が成り立ちます。
たとえば、睡眠不足で食事を摂らずに運動だけしても、むしろ身体に悪影響があります。
これらの質問にひとつでも当てはまったら、生活習慣の乱れが疲れやすさにつながっていると考えられます。
また、器質的要因、精神的要因が生理的要因につながっている場合もあります。
[関連記事│運動だけでは健康になれない?運動と栄養、腸の関係]
2.器質的要因による疲れやすさ
疲れやすさを訴える高齢者に次のような症状が現れていたら、なんらかの疾患や病態を抱えている場合があります。また、疲れやすさの訴えがなくても、以下のような症状がある場合は注意が必要です。
症状がみられた時は、矢印(➡)のあとに書かれている器質的問題を疑い、かかりつけ医か専門の病院を受診することをおすすめします。
●目での観察
- 黄疸 ➡ 肝胆道の疾患
- 眼瞼・手掌線の蒼白 ➡ 貧血
- るい瘦 ➡ 低栄養・悪性腫瘍
- 顔色が浅黒い ➡ 腎不全
- 下痢嘔吐 ➡ 電解質異常
- 発汗過多 ➡ 甲状腺機能亢進症
- 呼吸補助筋の収縮 ➡ 慢性閉塞性肺疾患
●身体に触れての観察
- 四肢の浮腫 ➡ 心不全
- 発熱・リンパ節の腫脹 ➡ 感染症
- 皮膚つまみテスト陽性 ➡ 脱水
●耳での観察
- 会話中の息切れ ➡ 慢性閉塞性肺疾患
3.精神的要因による疲れやすさ
疲れやすさを訴える方の生活に、最近大きな変化はありませんでしたか?その変化のせいで精神的なストレスがかかり、疲れやすさにつながっているかもしれません。
また、精神疾患を抱える方は緊張しやすかったり、周囲に敏感になったりと、疲れやすい傾向にあります。
特にうつ病の方は身体症状として、
・疲れやすい
・身体がだるい
などの症状が出ることがあります。
その他にも、認知症の方は不穏になったり、多動傾向になったりする方もいます。
この場合は通常より動き過ぎるため、結果として疲れやすくなってしまいます。
身近な方に、
・気分が沈んでいる
・物事に興味や喜びを感じにくくなっている
・落ち着きがなくなっている
などの変化がみられたら、精神科や心療内科への相談をおすすめします。
運動の中止基準(アンダーソンの運動中止基準│土肥変法より)
適度な運動は健康維持にかかせませんが、疲れやすい方に運動を促しすぎるのは、かえって負担になってしまいます。そこで運動を中止した方が良い場合の基準についてまとめました。
これは、リハビリの現場で実際に使われている基準です。ぜひ参考にしてみてください。
運動を行わないほうがよい場合
- 安静時脈拍数:120/分以上
- 拡張期血圧(下の血圧):120mmHg以上
- 収縮期血圧(上の血圧):200mmHg以上
- 労作性狭心症を現在有する場合
- 新鮮心筋梗塞1ヶ月以内の場合
- うっ血性心不全の所見の著しい不整脈
- 心房細動以外の著しい不整脈
- 運動前すでに動悸、息切れがある場合
途中で運動を中止する場合
- 運動中、中等度の呼吸困難・めまい・嘔気・狭心痛などが出現した場合
- 運動中、脈拍が140/分を超えた場合
- 運動中、1分間に10個以上の期外収縮が出現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、上室性頻脈など)あるいは徐脈が出現した場合
- 運動中、収縮期血圧40mmHg以上、または拡張期血圧20mmHg以上上昇した場合
次の場合は運動を一時中止し、回復を待って再開する
- 脈拍数が運動時の30%を超えた場合。ただし、2分間の安静で10%以下に戻らない場合は中止にするか、負荷の少ない運動に切り替える。
- 脈拍数が120/分を超えた場合
- 1分間に10回以下の期外収縮が出現した場合
- 軽い動悸、息切れを訴えた場合
[参考・引用文献:フィジカルアセスメント完全攻略BOOK(編集│曷川 元)彗文社]
まとめ
今回は高齢の方の注意すべき疲れやすさについて、観察ポイントを踏まえて書いていきました。高齢の方は世代的に我慢強い方が多いため、中には無理をして動かれている方もいるでしょう。
適度に動くことは健康に欠かせないことですが、過剰な活動は体や精神への負担になりかねません。
身近な方の異変に早めに気づくことで、大切な方の健康を守っていきましょう。